自民党がどんな失政をしようが、立憲民主党という選択肢はない/倉山満の政局速報

 立憲民主党の代表選の投開票が23日に行われた。結果、決選投票で枝野幸男元代表に野田佳彦元首相が勝利した。

 超一流のハッタリを持つ「野田代表」に対するのは「進次郎で大丈夫か」との声を高め、自民党総裁選にも影響を及ぼすと語るのは憲政史研究家の倉山満氏だ(以下、倉山満氏の寄稿)。

◆国民の選択肢をゼロにした「悪夢の民主党政権」

 選挙は何の為にやるのか?

 国民の意思を政治に反映させるためである。

 だから最低でもマトモな選択肢が二つ無ければならない。もし選択肢が一つなら、ゼロと同じだ。

 権力は絶対に腐敗する。だが、与党にどんなに不満であっても、他に選択肢が無ければ、与党に我慢するしかない。結果、与党の腐敗と増長は無限大となる。

 1955年以降、日本の政治はこのようになった。自民党の賞味期限は20年。しかし、日本社会党の無能は「まさか社会党に政権を渡すわけにはいかない」「ならばどんなに不満でも自民党に任せよう」を続けさせた。

 社会党に変わる、民主党、民進党、そして今の立憲民主党。国民を政権交代恐怖症に叩き落すには十分すぎた。特に3年3か月の民主党政権は「あいつらに政権を任せると何をしでかすかわからない」と、国民を恐怖のどん底に叩き落した。

 かくして、自民党が如何なる失政を行おうが、国民は許した。他に選択肢がないのだから、許すほかない。

 選択肢が三つ必要かどうかはさておき、最低でも二つ無いと、ゼロと同じなのだ。今の日本には選択肢がないに等しい。だから、野党第一党が極めて重要なのだ。

◆自民党総裁選に隠れた立憲民主党の代表選挙

 今回、与党の自民党総裁選とほぼ同時並行で、野党第一党の立憲民主党の代表選挙が行われた。自民党の陰に隠れがちだったが、それなりに目立った。スキャンダルだらけの日本維新の会は悪目立ちし、国民民主党はすっかり埋没した。

 では、どうなったか。

 真っ先に立候補したのが、野田佳彦元首相。「悪夢の民主党政権」で最悪の首相となった人物だ。デフレ下で消費税増税を強行、いまだに日本が景気回復できない元凶だ。

 辞め際には、「僕は小学校の通信簿でも正直者と書かれたのが自慢だ。嘘つきと言われたくない」と驚愕の理由で衆議院を解散した。

 解散総選挙を迫っていた安倍晋三自民党総裁の方が動揺、声が裏返っていた。結果は民主党が惨敗。それでも最善を尽くすならともかく、自民党への対抗などそっちのけで、自分を裏切った小沢一郎陣営に対し刺客を送り、共倒れが続出。安倍長期政権の礎を築いた。

 次に名乗りを上げたのが、枝野幸男元代表。2021年の総選挙では、国民民主党と社民党に解党を迫り、共産党には選挙協力を要求しながら「近づくな」と強要。野党共闘の名目で散々な迷惑をかけながら議席を減らし100議席を割る大惨敗。その責任者が「もしかしたら選挙に勝てるかもしれない」と名乗りをあげた。

 現職の泉健太代表に対し、「泉には実績がない」とマイナスの実績しかない老害、もといベテラン二人が名乗りをあげた。特に野田元首相の切り崩しは猛烈で、現職代表でありながら泉代表は20人の推薦人も集めるのに苦労した。

 こんな泉代表に対し、「存在感が無い」ともっと存在感が無い中堅が名乗り。結果、1年生議員の吉田はるみ衆議院議員を「ジェンダー平等を主張している党で女性が出馬できないのはまずいだろう」と出馬させた。

◆野田元首相が危なげなく勝ったと思いきや……

結果は、

1回目の投票は

 野田 佳彦候補  267 ポイント

 枝野 幸男候補  206 ポイント

 泉  健太候補  143 ポイント

 吉田 はるみ候補 122 ポイント

決選は

 野田 佳彦候補  232 ポイント

 枝野 幸男候補  180 ポイント

 で、野田元首相が危なげなく勝ったと思える。

 しかし、実情は薄氷を踏むようなギリギリの勝利だった。

◆「国会議員」と「公認候補」ではポイント差が肉薄

 内訳は

国会議員(1人2ポイント)

野田45人→90P 枝野33人→66P 泉29人→58P 吉田28人→56P

公認候補(1人1ポイント)

野田38P 枝野17P 泉26P 吉田17P

地方議員(票数をポイント換算)

野田384人→58P 枝野426人→71P 泉200人→33P 吉田141人→23P

党員サポーター(票数をポイント換算)

野田24087→81P 枝野15459→52P 泉7932→26P 吉田7776→26P

 地方議員と党員サポーターで差がついたが、国会議員は、1位と4位の差は17人。公認候補では、泉が猛追。

 野田元首相が泉支持派の10~15人を切り崩したので勢いがついたが、そこをおさえておけば、どうなるかわからなかった。もっとも政治の世界では、そういう隙を見せた泉代表が悪いのだが。

◆「野田代表」に「進次郎で大丈夫か」の声が高まる

 決選投票では、2・3・4位連合の目論見を野田陣営が切り崩し、当選。野田元首相、百の内で百を否定する気はないが、九十九は否定する。欠点しかない人物だ。しかし、そのあらゆる欠点を補うのが得意一級のハッタリ力。

 これは自民党総裁選にも影響を及ぼすだろう。総裁選の初動では「小泉進次郎で決まり」の空気だったが、討論会でボロがでてしまい、急失速。なんとか上位3人に踏みとどまっているが、石破茂・高市早苗に抜かされているとも。ここで「野田代表」だと「進次郎で大丈夫か」の声が高まる。私だってそう思う。進次郎氏はしょせんお父さんの純一郎元首相の物真似。ハッタリはしょせん、二流。

 それに対して野田元首相のハッタリは超一流。結構な真人間から、酸いも甘いも噛み分けた極悪人まで騙せてしまう。「右には右で高市!」か、「左が右に寄せるなら、こっちは左によって真ん中を奪われないようにする、で石破」か。

◆何一つ正しいことが無かった「野田人事」

 それはさておき、あらゆる政策を間違える天才、野田佳彦。

 皇室を大事にする!と宣言しながら女系天皇。

 官僚の言いなりになって、消費増税。

 安全保障が大事だと言いながら、首相の時には北朝鮮がミサイルを撃ちあげるかどうかで関係各国が緊張する中、「国会で増税しなければならないんで」と帰国。

 人事も下手で有名だが、今回は何一つ正しいことが無かった。

◆「君たちはなぜ与党になれないのか」人事

■幹事長=小川淳也(おがわ じゅんや)

 最大派閥サンクチュアリを抜けて野田代表を支持した功労者。しかし、サンクチュアリはさっそく野田体制にボイコットの姿勢。小川幹事長は、ドキュメント映画「君はなぜ総理になれないのか」の主役だが、既に「君たちはなぜ与党になれないのか」と揶揄されている。ちなみに小川氏、「消費税は最低25%」が持論。

■国会対策委員長=笠 浩史(りゅう ひろふみ)

 国会対策委員長代理からの昇格。古くからの野田支持。プロから見ると軽量級。

■政調会長=重徳和彦(しげとく かずひこ)

 泉体制主流派と思われていたが、真っ先に野田支持。論功行賞。それで自身のグループが解体の危機。果たして、そこまでして尽くした収支が上々か。

■選挙対策委員長=大串博志(おおぐし ひろし)

 

 代表代行も兼任の重用。増税派で、女系天皇推進。

■総合選挙対策本部本部長代理=小沢一郎(おざわ いちろう)

 恩讐を超えて支持。ポストを用意したが、偉いのか偉くないのかわからない。本部長が代表なのでナンバー2を、ということだけど、幹事長や選対委員長とどうやって仕事の割り振りをするんだろう。

 と、これだけ見ても、首をかしげる人事ばかり。細かく言うときりがないけど。

◆ぜひとも鳩山氏の記録を抜いてほしい

 代表選で争った、枝野幸男・泉健太・吉田はるみは誰も起用せず。これで「ノーサイド」と言ってのけるハッタリ力。超一流。血の雨が降る匂いしかしない。

 これだと、自民党が裏金を作ろうが脱税をしようが、立憲民主党に政権を取らせたくない。

 野田代表、思い出したように保守っぽいこと言ってるから勘違いされるが、本質はパヨク。パヨクは敵をも処遇するバランス人事ができないので、論功行賞で固めてしまう。

 二番目の選択肢が最低だと、どんなに一番目の選択肢に不満でも、我慢するしかないのだから。そして二番目の選択肢が邪魔して、三番目・四番目が伸びることができない。

 かつて野党民主党の代表選挙で鳩山由紀夫氏は選挙で勝ちながら人事で大失敗、あまりに露骨な論功行賞に不満な反主流派から三か月で引きずりおろされた。野田氏には、ぜひとも鳩山氏の記録を抜いてほしい。心の底から応援する。

―[倉山満の政局速報]―

【倉山 満】

1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中