大切な友人や職場の同僚が悩んでいる姿を見たとき、どのような言葉をかけますか? 相手の状況に共感したつもりでかけた言葉が、相手を余計に傷つけているケースもあるようです。フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)より、悩みを抱える相手の心を癒すために、ぜひ知っておきたい「関わり方」について、みていきましょう。

共感の“押し売り”にご注意

共感を阻む価値観の“押しつけ”は、時としてそれ自体「共感」の形を取って表れることもあります。これは、コミュニケーションを上手に取ろうとするあまり、気持ちが先走って「あなたの気持ち、よーくわかります」という、独りよがりを押しつけることが原因です。

たとえば、産官学の様々な分野の第一線で活躍している女性に――

「男性中心の社会で、これまでさぞご苦労されたでしょう? わかります、わかります! 私は、女性の皆さんにもっともっと多くの場で頑張ってほしいと、常々思っているんですよ」

というように一方的に言いまくる方がおられ、私なども大いに励ましていただくことがありますが、有り難いと思う半面、どこかムズムズとするような居心地の悪さを感じます。

もちろん、私も男性中心社会の理不尽さに悔し涙を流したり、ハラスメントに心折れたりしたことも少なからずあります。しかし、仕事の面では「第一号」と呼ばれる役目を多くお任せいただいたことに、やり甲斐と喜びを味わってきたのも事実です。生きているうちには、誰しも様々な苦労と楽しさがあると思っていますので、全面的に「苦労ばかりでしょ!」と共感されても、素直に感謝できないこともあるのです。

仕事に限らず、たとえば友人・知人との会話でも、押しつけの面では気をつけなければいけない点がありますね。

たとえば、大病の診断を受けたという人がいた場合、相手の内心にも構わずに「大丈夫、元気出して! 今はガンも治る時代なんだから」などと、一方的に元気づけた気分になってしまうこと。あるいは、受験に失敗した学生さんに「人生は長いんだし、また来年があるよ。さらに頑張ろう!」などと、いち早い気持ちの切り替えと前向き思考を押しつけてしまうこと。また、目の前の仕事で悩んでいる人に「そういうことよくある! そんな時は、こうしたほうがいい、ああしたほうがいい。ぜひ、試してみなさい」などと少々、押しつけがましいアドバイスをすること。

こういった例は、自分としては相手の気持ちになって「良かれ」と思って話しかけているのでしょう。しかしながら、言われた人はどう感じるでしょうか? 医師でもない立場で「治るから」と保証されたところで不安は解消されませんし、随分軽い感じで言ってるなぁ、と癇に障ることにもなりかねません。

また、不合格でメゲている最中に「切り替えろ」と言われても、まだそのタイミングではないでしょう。悩みごとへのアドバイスにしても、あまり押しつけがましいと、相手の立場によっては断れず、かえってその人の悩みを増やす結果にもなりかねません。

こういうことは、どういうシチュエーションで起こるか考えると、相手が何らかの苦労や、つらさ、悲しみを背負っている場合が多いようです。そういう時に、同情する心ゆえに「わかります、わかります!」の決めつけ、押しつけが起きてしまうのでしょう。

ただ、ここでひと言断っておきますと、私は何も相手に寄り添おうとする優しい気持ちを否定しているのではありません。しかしながら、かける言葉によっては、相手から「共感の押しつけ」と取られかねない懸念があるので、こういった場合の言葉選びには慎重になろう、とご提案したいのです。

(広告の後にも続きます)

共感の“押し売り”を引き起こしやすい、もう一つの原因

コミュニケーションにおいては、「共感」と「決めつけ」の違いを理解しておくことはとても重要です。

たとえば、初対面の相手と話す場合も、事前の情報から断定的に「わかっています! ○○さんは、こうですよね」と言い切ると、相手にしてみれば「そんなことないんだけど」と思う反面、違うとも言いにくい空気をつくってしまうかもしれません。そうではなく、「こういう風に伺っていますが」と、せめて間接的な表現にしてみる。それだけで、相手の方も「そう思われているようですが、実は……」と否定しやすい空気が生まれてきます。

自分のどこかに客観的な視点を残しておくことが、自分の感情に押し流されないための“防波堤”になります。そして、受け手の立場になってどう感じるか、というところまで思いを馳せること――くれぐれも、踏み込み過ぎないことが大事ですね。

もう一つ、共感の“押し売り”を引き起こしやすい原因としては、配慮を欠いた相手の事情への「踏み込み過ぎ」もあります。

たとえば、相手との距離がそれほど縮まっていない段階で――

「ご結婚されたのはいつ? お子さんは? ご両親はご健在で?」

といった相手の家族構成や、未婚既婚などを臆せず尋ねる人に出会うことがあります。そうしたデリケートな点を早い時期に根掘り葉掘り聞くのは、あまり感心できません。私は基本的には、本人から話してくれるまでは聞かないようにしていますので、長年お付き合いのある仕事仲間でも、既婚か未婚かを知らない方が結構います。

共感は、強引につくろうとすべきではありません。まして、相手の全てを知ろうというのは、全く逆の結果をもたらすことさえあります。本心から寄り添う気持ちがあれば、敢えて触れずにおくのが賢者の態度―仮に相手が話してくれるなら「うん、うん」と心のこもった相槌を打つだけで、言葉以上のメッセージは伝わるものです。

木場弘子

フリーキャスター