出産、育児、教育、仕事、住居、病気、老後──。人生にはライフステージごとにさまざまな出費がついてまわります。特に、子どもの学費は高校に進学するタイミングで急激に増える傾向があります。本記事では、元国税専門官である小林義崇氏の著書『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版)より、子どもの教育費負担を軽減するために利用できる、意外と知られていない支援制度について書かれた箇所を一部抜粋・編集してお届けします。

高校から一気に増える……子どもの学費

子どもの学費は、高校から一気に増えます。高校に入ると公立校でも年間12万円ほどの授業料がかかります。後ほど説明する高校無償化を受ける場合も、いったんは授業料などを払った後に補填される流れなので、入学時は支出の多さに驚く人も多いと思います。

かくいう私もその一人。長男の私立高校入学が決まったとたん、「来週までに制服代で10万円」「入学金やタブレット代で30万円」といった感じで、急に大きな金額が必要に……。

遠くの学校に通うなら定期代も高くなります。その他、修学旅行のための積立金や大学受験時の受験料など、何かとお金が必要です。そして、私立高校は公立高校よりもさらに大きなお金が必要に……。

そうした状況で使えるのが、2020年4月にスタートした「高等学校等就学支援金」です。高等学校等就学支援金は、国の制度で、公立高校の場合は年間11万8,800円、私立高校(全日制)の場合は世帯年収によって年間11万8,800円もしくは39万6,000円が授業料支援として支給されます。

公立高校の場合、そもそもの授業料が低く設定されているので、就学支援金を受けることで授業料はかなり抑えられます。私立高校でも、39万6,000円の就学支援金をもらえれば、公立校との授業料の差はぐっと縮まります。

ただし、この制度を利用するには年収条件を満たす必要があり、モデルケースとして示されている共働き世帯の場合、世帯年収約1,030万円未満が基準となっています。また、年収約660万円以内の世帯なら私立高校の支援金を39万6,000円受けられますが、660万円超1,030万円未満の場合(子どもが一人)11万8,800円に減額されます。なお、条件で挙げた世帯年収は、世帯構成や収入がある人の数などにより変動します。

先ほどモデルケースで示した年収1,030万円がボーダーラインになるのは、「共働きの両親と16歳以上の高校生の3人家族」の年収基準。片働きや、子どもの数が違うときは年収のボーダーラインが変わります。
 


高等学校等就学支援金 *子どもの数・年齢で支給条件が変わるのは扶養控除対象者(高校生)、 特定扶養控除対象者
 (大学生)の数によって所得控除などが変わるため。
*金額は世帯年収。

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公立との差は埋められる!……「私立=お金が心配」と思ったら

高等学校等就学支援金で、公立と私立の「高校の授業料」の差は埋まるとはいえ、私立校のほうが入学金や学用品などが高くなりがちです。こうしたコストも含めると、やはり出費がかさみます。しかも、国の制度では、目安年収が約590万円を超えると私立高校向けの加算が受けられません*。高所得の世帯では、私立高校の学費はやはり高くなります。

*両親と中学生・高校生の4人家族で、片働きのケースの目安世帯年収。同じ家族構成で共働きなら約660万円が目安世帯年収。

この問題に対して、地方自治体が独自の支援制度を設けている可能性があります。お住まいの場所によっては、国の就学支援金とは別に、地方自治体から支援を受けられるかもしれないのです。

一例として、東京都の「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」を取り上げます。この制度では世帯年収ごとに3つの区分を設けていて、国の支援をフルで受けられない目安世帯年収590万~910万円(所得のある保護者が1名の場合。共働きなら目安世帯年収740万~1,090万円)でも、都から年間36万5,200円の支援を受けられます*。

*令和6年度より、どの世帯年収でも年間48万4,000円の範囲内で、補助を受けられるようになりました。

さらには、東京都が独自に行う給付型奨学金(奨学給付金)や貸与型奨学金(育英資金)も受けられる可能性があり、これらを活用すれば私立高校にかかる教育費の多くをまかなえます。東京都のほかにも、神奈川県や埼玉県、千葉県、大阪府など、都市部を中心に私立高校の授業料を助成する制度が設けられています。

たとえば大阪府の場合、授業料の完全無償化実現を目指して段階的に進めていて、令和8年度には全学年で、世帯収入や子どもの数に制限なく授業料の完全無償化を実施する方針です。

お住まいの地域の私立高校で制度があるか調べたい人は、「私立高等学校等授業料軽減助成」のキーワードで、検索してみてください。国の就学支援金と、地方自治体の支援のどちらも活用すれば、私立高校と公立高校の教育費負担の差をかなり解消できます。

従来は「教育費を抑えるなら、私立ではなく公立」という考え方が一般的でしたが、今はそうとは言い切れません。公立か私立かにかかわらず子どもにとってふさわしい学校を選びやすくなっているので、「私立=お金が心配」という不安が浮かんだら、支援制度を調べてみましょう。

小林 義崇 

元国税専門官

マネーライター