Frank Franklin II / AP Photo

 退任を控えた岸田文雄首相は、アメリカなど世界主要国の指導者に対し、安全保障面での連携強化を訴えている。ロシアや中国の脅威を念頭に、「今日のウクライナが明日の東アジアになる可能性がある」と強い危機感を示す。アメリカに積極関与を求める発言に、米紙コラムニストも賛意を示した。

◆岸田首相の危機感「今日のウクライナが明日は東アジアに」

 岸田首相は、日本時間9月23日未明にニューヨークで行われた国連総会での演説で、ロシアによるウクライナの主権侵害が許されれば、アジアなどのほかの独裁政権が同様の行動を取る可能性があると警告した。

 米コラムニストのジョシュ・ローギン氏は、ワシントン・ポスト紙(9月25日)への寄稿で、岸田首相の「だからこそ、私は『今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない』と言い続けている」とのコメントを引用し、強い危機感を共有している。岸田首相は「そして、これがまさに、ユーロ・アトランティックとインド・パシフィックの安全保障が不可分であると繰り返している理由だ」と続けた。

 岸田首相はまた、ニューヨークで開催されたブルームバーグのイベントでも、国際秩序の基盤がロシアのウクライナ侵略などによって脅威にさらされているとの見方を繰り返した。「ウクライナは、アメリカの支援なしではロシアの猛攻に耐えられず、これが中国を勢いづけ、東アジアで新たな危機を引き起こす可能性がある」とも述べている。

◆アメリカへの提言「内向きになるべきでない」

 ロイター通信は、こうした演説を受け、岸田首相がアメリカに対し、国際的なリーダーシップを維持するよう強く訴えたと報じている。ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事的拡張など、国際秩序が脅かされている現状を指摘し、アメリカが「内向き」にならず、引き続き世界のリーダーシップを発揮することが重要だ、と岸田首相は訴えた。

 香港を拠点とする国際ニュースメディアのアジア・タイムズ(9月24日)は、岸田首相の発言について、アメリカの政策立案者に対する警鐘として機能したと評価する。記事は「日本では、(日米豪印)クアッドが、安倍首相と岸田首相から受け継いだ遺産となっている。クアッドの議題と自由で開かれたインド太平洋戦略は、自民党内で広く受け入れられている」と日本国内の状況を整理している。

◆米紙「日本の大胆なコミットメントに応えるべき」

 クアッドの安全保障施策をめぐり岸田首相は、アメリカ訪問中の演説を通じ、アメリカのリーダーシップの重要性を強調した。ロイターは、岸田首相が国際秩序の危機を指摘し、アメリカが東アジアおよび世界でのリーダーシップを維持する必要があると述べたと伝えている。首相はまた、中国の脅威に対抗するため、多国間で共同の取り組みを強化する重要性を訴えた。

 ワシントン・ポスト紙は、岸田首相の演説内容を取り上げている。「私は、安全保障環境が著しく厳しくなっていることを強く感じている」「そして、わが国を取り巻く安全保障環境については、急速にさらに複雑化している……我々は危機的な状況にある」との発言だ。

 これに対し、同紙コラムニストのローギン氏は、「彼のメッセージは、アメリカの政策立案者たちへの警鐘となるべきである」と受け止める。ローギン氏は、「……アメリカは傍観者でいるわけにはいかない。我々は、日本の大胆さに、アメリカのアジアへの同等の大胆なコミットメントで応える必要がある」と述べ、安全保障をめぐる岸田首相の考えに賛意を示す形で記事を結んでいる。