9月19日、市民団体の「LGBT法連合会」と「Marriage For All Japan」が、自民党総裁選の立候補者と、立憲民主党代表選の候補者を対象とした、性的指向および性自認に関するアンケート結果を発表した。
立憲は新たに党代表に選出された野田佳彦元首相を含め、候補者4人全員が同性婚の法制化に賛成と回答。「性的指向・性自認による差別をしてはならない」と明記した法律を制定するつもりであるとも答えた。
一方、自民党は候補者9人のうち、新総裁に選ばれた石破茂氏と河野太郎氏のみが回答。うち河野氏は同性婚に「賛成」とした。
性別変更後の子どもの認知、最高裁が6月に初判断
LGBT理解増進法の施行から6月で1年が経過したが、性的マイノリティに関連した関係法令のあり方については、政治家や国民の中でも意識に差があり、議論が続いている状態だ。
そんな中、6月21日に最高裁第二小法廷が、性別変更した元男性(Aさん)と、その次女の関係を巡り、法的な親子関係を認める判決を言い渡した。
Aさんは、性別変更の手術前に保存していた、自身の凍結精子を使用しパートナー女性Bさんとの間に長女をもうけたのち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)に基づいて戸籍上の性別を変更。
性別の変更後にも凍結精子を使用し、Bさんとの間に次女が誕生しており、生物学上はAさんが長女・次女の父親であると認められていた。しかし、Aさんが認知届を自治体に出したところ、不受理となった。
そこで、Aさんの子ども(長女・次女)が原告となり、元男性のAさんを被告として、親子関係の認知を求める形で裁判が行われていた。
「子の福祉及び利益に反する」裁判官全員の意見が一致
一審の東京家裁はAさんと2人の子の親子関係を認めなかったのに対し、二審の東京高裁は長女の出生時に、Aさんが男性であったことから、Aさんと長女の親子関係を認定。しかし、性別変更後に生まれた次女との親子関係は認めておらず、長女と次女の間で不平等が生じていた。
Aさんの性別変更のタイミングと、姉妹誕生の時系列(弁護士JP編集部)
最高裁は、「実親子関係の存否は子の福祉に深く関わるものである」として、東京高裁が認めなかった次女との親子関係も認めた。
〈血縁上の父子関係があるのに、父親が法律上女性であるのを理由に、認知が認められないとすれば、子どもは監護や養育を受けたり、相続人になったりできず、子の福祉及び利益に反する〉
この判決では、裁判官4人全員(通常、小法廷の裁判官は5人だが、最高裁長官が所属している場合は審理に参加しないことが多い)の意見が一致。生物学上の父が性別変更後に子をもうけた場合の、法律上の親子関係について、最高裁が判断を示したのは初であった。
「誰が関係を引き裂いてるのか、明らかにさせたかった」
弁護士JP編集部では一連の裁判を担当した仲岡しゅん弁護士を取材。裁判を振り返りつつ、最高裁の判断を引き出した背景や、「性別変更」の課題、性同一性障害特例法改正に向けた議論の現状について、幅広く話を聞いた。
本件で仲岡弁護士は前述した「認知の訴え」のほか、国や行政に対し「地位の確認訴訟」「戸籍法に基づく異議申し立て」の訴えも起こしていた。
「親子関係を認めさせるため、すべての手段を試すことにしましたが、『認知の訴え』がメインになると思っていました。
国や行政を訴えるとなると、どうしても難しい議論が必要になってしまいますが、子どもが父親に対して認知を訴えるという形をとれば、シンプルに判断を求めることができるからです」(仲岡弁護士)
また、今回の訴えが、通常の裁判と性質の異なるものであることも、「認知の訴え」を起こした理由の一つだったという。
「通常は『慰謝料を払ってくれ』『払いたくない』、『離婚したい』『したくない』といった争いがあるからこそ、紛争が発生します。
しかし今回、ご当人たちは『法的にも親子として認められたい』という点で一致していました。
ですので、裁判を通じて『一体誰が、親子の法的な関係を引き裂いてるのか』を顕在化させたかったというのもねらいでした。
つまり『当事者同士が争わない裁判』という形をあえてとり、行政や司法が親子の法的な関係を引き裂いているという構造を明らかにさせたかったのです」(同前)
裁判でも争点、子なし要件「早急に廃止すべき」
一方、裁判では、未成年の子がいた場合に性別変更を認めない「子なし要件」(性同一性障害特例法3条)との整合性も争点の一つとなっていた。
これに対し最高裁は、判決や補足意見で「子なし要件」は本来「子の福祉への配慮を目的としたもの」であり、「父子関係を認めない理由にはならない」と言及。さらに同法が「性別変更後に生殖補助医療を用いて子どもが生まれる可能性」を禁じていない点も指摘した。
「本件は、親が性別変更をしていますが、実際に子どもがいるわけで、『子なし要件』をすり抜けたケースと言えます。未成年の子どもを持ちながら、性別変更ができ、その上で親子関係を求めたことについて、ネット上では『脱法だ』と批判する人もいます。
しかし、『子なし要件があるからと言って、親子関係を認めない理由にはならない』というのが今回、最高裁の判断で示されました。
そもそも、性別の変更と、性別変更後に子どもとの親子関係を作るかどうかは別の問題であり、ネット上などの批判は的外れだと思っています」(仲岡弁護士)
また、この「子なし要件」についても、「早急に廃止を考える必要がある」と仲岡弁護士は断言する。
「性別を変更するのに、このような要件を定めている国は今現在、日本以外にはありません。子どもが小さい時であるほど、親が性別を変更しても、親子関係に影響が出にくいというアメリカの研究結果もあります。
想像してみてほしいのですが、子どもが物心つく前から、親が性別変更していたほうが、物心ついたあとで親が性別変更するより、なじみやすいのではないでしょうか。
未成年の子どもがいるからといって、一律に性別変更出来ないとするよりも、子どもの意見を聞いたり、親子関係を調査して問題ないかを確認したりして判断したほうが良いと思います」
政界の力学で議論進行「現場の声に耳を傾けるべきでは」
自民公明を含む各党で、現在、性同一性障害特例法の改正に向けた議論が行われているが、こうした政界での動きについて、仲岡弁護士は「『政治の世界の力学で動いているんだな』という印象を受けている」という。
「議論の前提として、当事者の声を、ちゃんと聞く必要があると思います。しかし、実務法曹やトランスジェンダー当事者に対するヒアリングが十分に行われているかというと、そうではないように感じます。
今年3月のGID(性同一性障害)学会に出席した際に、当事者団体の方や、弁護士の方々と意見交換を行いましたが、政治家からヒアリングを受けた、議論をしたといった声はほとんど聞かれませんでした。
政治家の方からも、LGBT理解増進法と性同一性障害特例法の今後について報告を受けましたが、これまでの議論に医者や弁護士、当事者らがどれだけ関与したのかは不明でした。少なくとも私の耳にはそうした情報は入っていません」(仲岡弁護士)
立憲民主党の代表戦、自民党の総裁選を経て、今秋には衆院選が行われる見通しだ。
仲岡弁護士は、特例法改正の議論が「総裁選や衆院選のゴタゴタで、来年に持ち越されるのではないか」と話す。
「先延ばしになるのであれば、その間にぜひ、立法府の皆さんが当事者の方や関係者など現場の声に耳を傾けるべきではないでしょうか」(仲岡弁護士)