日本の名目GDPが2023年にドイツに抜かれ、世界第4位に転落しました。2026年にはインドにも抜かれると見込まれていて、日本のGDP成長率、ひいては国際的な地位に対する不安の声も聞かれます。しかし、実際に日本の生活水準は低いのでしょうか? 本記事では、帝国データバンク情報統括部の『帝国データバンクの経済に強くなる「数字」の読み方』(三笠書房)より一部を抜粋、再編集して、数字の見方と実態をご紹介します。
日本のGDPは世界で何番目?
2023年10月、日本の名目国内総生産(GDP)の世界ランキングが13年ぶりに転落するというニュースが飛び込んできました。
2022年時点の日本の名目GDPはアメリカ、中国に次ぐ世界第3位でした。これまでのランキング推移をみると、日本は1968年から2009年までの42年間で世界第2位の位置にありました。その後、2010年には著しい成長を遂げる中国に抜かれて、3位に転落。
それから13年の間、日本は「世界第3位の経済大国」と言われてきましたが、IMF(国際通貨基金)の予測で、2023年の名目GDPはドイツに抜かれて、第4位に転落する見通しとなりました。
近年、主要先進国の経済が伸び悩んでいますが、ドイツも例外ではありません。それなのになぜ日本の名目GDPはドイツに抜かれてしまうのでしょうか。
それには2つの大きな要因があげられています。
1つ目は昨今の記録的な円安・ドル高にともない、ドル換算の名目GDPが減少したことです。2023年の名目GDPの予測値をみると、ドイツは前年比8.4%増の4兆4298億ドルだった一方、日本は同0.2%減の4兆2309億ドルでした(図表1)。
しかし、ドルに換算せずそれぞれの通貨で前年からの変化率をみると、ドイツは5.0%の増加でしたが、日本はそれを上回る5.6%増と大小が逆転していました。この結果から、円安・ドル高の影響はかなり大きいと言えるでしょう。
2つ目はドイツの物価が急激に上昇したことです。IMFの見通しでは、2023年の日本の消費者物価上昇率(平均)は前年比3.2%と、約30年ぶりの高さになりますが、ドイツは同6.3%と日本の約2倍にのぼる見込みなのです。
名目GDPはこのような要因によって左右されやすい指標です。GDPとは、その国・地域において一定期間に生み出された付加価値額の総計ですが、名目GDPはその時点の市場価格で計測した値になるため、価格・物価の変動による影響を受けてしまいます。
モノの価格が上昇しているだけで、取引量は変わっていない、もしくは減少している可能性もあるため、名目GDPだけでみると、高インフレであるドイツの経済が日本よりも成長したかを判断するのは難しいです。
この場合、名目額から物価の影響を取り除いた「実質GDP」が使われます。ニュースなどで「今年のGDP成長率は〇〇%」といった場合に報道されるGDPは、基本的にこの実質GDPを指すのです。
したがって、「名目GDP」はある時点の経済規模を把握するのに適する一方、「実質GDP」は各時点間の経済成長の度合いをみる際に使われる指標と言えるでしょう。実際、2023年の日本とドイツの実GDPの成長率をみると、日本は前年比2.0%増、ドイツは同0.5%減と、ドル建て名目GDPの変化率と異なる結果になります。
さらに、経済規模を国際比較する場合は、市場為替レートでドル換算する名目GDPではなく、各国間の物価水準の違いを取り除く「購買力平へいか価(PPP)で測った名目GDP」が適しているといった見解もあります。
PPPで換算した2023年における日本とドイツの名目GDPを比較すると、ドイツは5兆5380億ドルの見通しである一方、日本は6兆4952億ドルとまたしても日本が上回ります。
しかし、PPP換算の場合、順位が入れ替わるのは日本とドイツだけでなく、中国が1位、アメリカが2位に入れ替わるほか、インドが3位に上がり、日本(4位)とドイツ(5位)が続く形となります。
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日本の「生活水準」は低いのか?
さて、順位が変わりつつも経済大国であることに変わりはない日本ですが、国民の生活水準を表わすGDPを人口で割った「一人当たりGDP」の順位もみておきましょう。
IMFの同データベースでは2022年の日本の一人当たりGDP(名目、ドル建て)は世界第32位の3万3854ドルでしたが、2023年(3万3950ドル)は第34位に下落すると予測されています。PPP換算でみても、2022年と2023年の日本はいずれも36位で、高い水準とは言えません。
日本の経済規模を示すGDPは世界トップクラスであるにもかかわらず、なぜ一人当たりGDPとなると、このような水準になってしまうのでしょうか。
2023年の一人当たりGDP(名目、ドル建て)の世界ランキングをみてみると、トップはルクセンブルク、次いでアイルランド、スイスが続きます。これらの国を含め上位にランクインしている多くの国の共通点の一つは、人口が比較的少ないところです。
なかでも、ルクセンブルクやスイスは労働人口に占める越境労働者の割合が大きく、多くの付加価値を生み出している割に人口が少ないためGDPを一人当たりに換算すると値が大きくなってくるのです。逆に、名目GDPが世界第2位の中国の一人当たりGDPは第75位でした。
この点を考えれば、日本の一人当たりGDPの順位が上位でない一因は人口の多さと言えそうです。しかし、一人当たりGDPが上位の国のなかには、人口が少ないなかで有力な金融機関の集積地である国や、競争力が高い国、IT導入などによる効率化で生産性が高い国がみられます。
加えて、人口が日本の2倍以上であるアメリカの一人当たりGDPの順位は第7位と高順位であることも考えると、人口の多さではなく、根本的な原因は生産性の問題などほかにもあると言えるかもしれません。
このように、各種GDPはその国・地域の特徴やその時の経済環境などによって傾向が全く異なるものになり得ます。特に国際比較をする場合は、一つの視点にしぼらずに、さまざまな視点から分析することが必要と言えます。
今回、日本の経済規模の位置付けが低下したのは一時的とみられる要因によって起こったと考えられます。しかし、実質GDPの成長率をみると、日本が長い間高い成長を遂げていない状況は確かであり、それも一つの要因ではないでしょうか。
実際、同じIMFの予測では、日本は2026年に年々著しい成長をみせているインドにも抜かれて、第5位になる見通しとなっています(図表)。日本の経済成長率が高まらなければ、今後はこういった新興各国にも抜かれていくでしょう。
日本が国際的地位を保つためにも、生産性の向上やイノベーション、競争力向上につながる施策など中長期的に経済成長を高める対策が求められています。
帝国データバンク情報統括部