「障害者雇用枠で採用したのに、障害を理由に雇い止めするのは違法」 元従業員が会社に対し約200万円を請求

9月30日、障害者雇用枠で保険会社に勤めていた元従業員の女性が、「障害を理由にした雇い止めは無効」として、会社に対し地位確認や損失補償などを求める労働審判を申し立てた。

パニック発作を理由に休職命令後、雇い止めされる

申し立ての相手方(使用者)は朝日生命保険相互会社(本社は東京都新宿区)。

女性(以下Aさん)と会社の労働契約は2023年5月に成立。応募にあたってAさんが提出した障害説明資料には「アクシデントが起きると不安感が高まりパニックとなりやすい」など、配慮すべき事項も記載されていた。

同年7月、Aさんは暑熱により高温な環境になっていた地下の作業場でパニック発作を起こし、痙攣(けいれん)状態になる。会社の人事責任者は、発作の原因は「てんかん」だとして、Aさんに脳外科の診断書の提出を求めた。

検査でAさんは「脳の異常はない」との診断を受け、会社に診断書を提出。しかし、会社の責任者はAさん本人や産業医との面談も行わずに「2か月から3か月休職するように」と一方的に命令した。また、「発達障害だから話が通じない」などの暴言をAさんに浴びせたという。

2023年9月、Aさんは主治医による「勤務内容の事前の通知や休憩時間の確保、空調・冷房設備の整備などの合理的配慮が整い次第、即日復職が可能」との診断書を提出。しかし、10月に会社は「今以上の合理的配慮はできない」「同じ条件で、また発作を起こす懸念がある」などとしてAさんの復職願を拒否。「傷病欠勤満了後の出勤は就業規則により認められず、2024年4月末で雇用期限満了となる」と、雇い止めが前提のような通知をAさんに送った。

さらに2024年3月、会社から「復職並びに雇用契約期間の終了」という通知を受けたAさんは、あらためて復職願を提出。産業医との面談を受けたのち、4月より復職した。ところが、会社は「復職と契約更新は別」と称して、復職からわずか半月後に雇い止め通告を行った。

Aさんは労働組合「コミュニティユニオン」に加入し、5月・7月・8月の3度にわたって団体交渉を行う。組合は「Aさんへの休職命令は主治医の意見を無視しており、違法・無効」「雇い止めは障害者雇用促進法に反する」などと指摘して、雇い止めを見直すよう求めたが、会社は「休職命令も雇い止めも本人の安全配慮のためだ」と主張して、組合の要求を拒否したという。

「障害者雇用枠で障害を理由に雇い止めされることは極めて異例」

今回の申し立てでは、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、無効な休業命令による損失補償(107万円余り)、無効な雇い止め後の未払賃金(92万円余り)などを会社側に請求している。

申し立てと同日に行われた記者会見で、代理人の白神優理子弁護士は「障害者雇用について、申告した障害を理由とする雇い止めが許されれば、およそ障害者雇用は成り立たなくなることについて警鐘(けいしょう)を鳴らす」と、本件の意義を語った。

「会社はホームページに『障害のある方の採用を積極的に推進しています』と記載している。

Aさんが応募時に提出した書類には配慮すべき事項が適切に記載されており、主治医の診断書に書かれた合理的配慮もごく常識的な内容。しかし、会社は配慮を拒否した」(白神弁護士)

同代理人の尾林芳匡弁護士は、そもそも障害者雇用枠で障害を理由に雇い止めされることは極めて異例であると説明した。

「会社はAさんを復職させないまま期間満了まで引っ張り、最後の最後で雇い止めを行った。障害者雇用制度の趣旨に反した対応だ。

一般の労働者が能力主義的な理由で解雇される事例とは全く異なる。今回のような申し立ては、おそらく全国で初めての事例」(尾林弁護士)

また、申し立てと同日、コミュニティユニオンは朝日生命保険相互会社への指導を厚生労働省に要請した。職業安定局長・東京労働局長に宛てて要請書を提出しようとしたが受け取りを拒否されたため、口頭での要請になったという。

コミュニティユニオン東京三多摩地域本部の福田かづこ氏は「憲法で定められた、障害者の働く権利を守ることも企業の責任だ」と語り、これからもAさんを支援していくと意気込みを示した。

以下は、会見でAさんが読み上げたコメント。

「私は、障害の関係で、高温や過集中の作業では、パニック発作を起こしやすいのは確かです。でも、私は仕事が好きだし、一緒に働く仲間も好きです。有無を言わせず職場から排除されることには、納得がいきません。

同じような扱いを受けて泣き寝入りをする人をこれ以上ださないためにも、申し立てをしました」