10月1日、工務店などの住宅事例を紹介する雑誌『チルチンびと』を発行している出版社「風土社」が、同雑誌に掲載された写真を無断で国土交通省などのウェブサイトに使用されたとして国、公益財団法人「日本住宅総合センター」、「アルセッド建築研究所」を相手に著作権侵害で東京地方裁判所に提訴した。
ウェブサイトへの掲載(公衆送信)停止のほか、無断で写真を使用された書籍の廃棄を含む出版差し止め、および総額2442万円の損害賠償を請求する。
提訴後に代理人らとともに会見を行った風土社代表・山下武秀氏は「事前に(写真の使用)許諾を取らないのは、あまりにも非常識だ」と訴えた。
内部資料向けに許諾した写真が無断で販売書籍にも使用…
山下氏は2013年、建築設計やまちづくり支援の調査・研究を行うアルセッド建築研究所から、国の有識者会議「日本の住まいの知恵に関する検討調査委員会」の内部資料用として、同社が発行する雑誌『チルチンびと』に掲載された写真の提供を求められた。
「あくまで調査研究のための内部資料としてのみ使用される」という認識で、山下氏は写真数十点を電子データで提供した。
また、同研究所から有識者会議の委員になってほしいという要請を受け、山下氏はこれを受諾。後に、同氏が提供した写真が掲載された小冊子を見せられた際には、「印刷物を作る時は事前に言ってくれないと困る」と感じつつも、あくまで内部資料用の非売品だろうと黙認したという。
しかしその後、国土交通省と日本住宅総合センターが無許諾で、同写真をウェブサイトに掲載していることが発覚。
さらに、日本住宅総合センターは書籍『今に生きる日本の住まいの知恵 わが国の気候・風土・文化に根ざした、現代に相応しい住まいづくりに向けて』でも同写真を使用し、販売していたことがわかった。
山下氏は「写真はあくまで国の有識者会議の内部資料のために提供したものであり、書籍の販売およびウェブサイトへの掲載は許諾範囲外で、著作権侵害にあたる」と主張。これまで写真の使用料を求めてきたが被告らが応じなかったため、やむなく提訴に踏み切ったという。
「被害者はカメラマン」だが…風土社が原告となったワケ
日本住宅総合センターが販売した書籍に掲載された写真のうち、山下氏が著作権侵害にあたると主張する写真は計69点230か所に及ぶ。
このうち山下氏がカメラマンを把握している写真は59点196か所(カメラマンは14名)あるが、書籍ではいずれもカメラマンの氏名が記載されておらず、トリミングも同意なく行われていた。
風土社は雑誌に掲載するための使用料をカメラマンに支払う立場であり、再使用の際も著作権者に対して使用料を支払う契約を結んでいる。
また、風土社では写真の掲載にあたり、カメラマンのほか、取材対象となった建築の所有者らにも許諾を得ているが、いずれも雑誌掲載目的以外での使用許諾契約は結んでいない。ウェブサイトへの掲載、書籍としての販売となれば、当然個別にカメラマンの許諾をとる必要があるが、国交省と日本住宅総合センターは、無許諾で写真を使用している状態だという。
本訴訟の被害者は著作権を保有するカメラマンと言えるが、被害者が多数におよぶので、風土社を訴訟遂行の選定者とし、同社が原告となる形で進められている。
賠償額は、第三者に写真使用を許諾する場合の使用料から算出した。おおむね1点1か所あたり3万円から30万円の範囲でカメラマンと協議して決めていることから、1回の掲載につき11万円で計算。被告らが写真を無断でトリミングしていることから、著作者人格権の侵害にも相当するとして慰謝料も1掲載につき1万円の計算で上乗せしている。
国側は「承諾を得ていた」と主張
一方、被告らは「風土社から写真使用の承諾を得ていた」と主張。著作権使用料の支払いを拒絶している。
山下氏によれば、被告らとの間で写真の使用について契約書は結んでおらず、有識者会議の委員になるための承諾書を交わしただけだという。
原告代理人の門西栄一弁護士は、会見で「掲載された写真には、個人が所有する建物も写っている。山下さんは雑誌に掲載する際、建物所有者にも許諾を得ている。これは出版社として当然のことだ。しかし被告らは、国の関係機関が取り扱うことで、そうした当たり前のことを検討せずとも、短絡的に、(自分たちに)すべての許諾があるものと勘違いしているのではないか」と指摘した。
なお、本訴訟では損害賠償のほか、ウェブサイト上に掲載された写真の公衆送信の停止も求めている。すでに日本住宅総合センターのサイトからは写真が抹消されたが、国交省はいまだに同写真を削除しておらず、誰でも閲覧できるままとなっている。