石破茂首相は2024年10月1日夕、首相官邸で首相就任後初の会見に臨んだ。石破氏は早期解散に否定的だった自民党総裁選での発言を翻す形で、「10月9日衆院解散、15日公示、27日投開票」の日程を改めて表明した。
持論を封印したのは、解散のタイミングにとどまらない。
J-CASTニュースのインタビューで意義を疑問視していたリニア中央新幹線について、最速で37年の全線(東京(品川)-大阪)開業をJR東海に求めた岸田政権の方針を「踏襲する」と述べた。
加えて、リニア開業で東海道新幹線の輸送力に余裕ができるとして、この点を含めて「経済効果もきちんと見据えたリニアの早期開業」を実現する、とした。
「大体、税金を1円も入れないって話じゃなかったんですか?」
石破氏はJ-CASTニュースが24年1月に掲載したインタビュー(23年12月収録)で、
「私はリニアそのものが何の意味があるのかよく分からない。そう思ってる人は実は多いんじゃないの?」
などと述べていた。この時、10月1日に開業60周年を迎えたばかりの東海道新幹線とも対比しながら、リニアの意義を疑問視した。具体的には、東海道新幹線の建設の際にも批判はあったとしながら、次のように指摘した。
「当時は東海道線が飽和状態だったし、日本経済が伸びていく時代だった。東海道新幹線の構想にはものすごく先見性もあったわけですが、リニアというのは本当にいるのかね?と思ってる人って、実はいっぱいいませんか?」
さらに、
「リニアというものに意味がないとは言いませんが、東京-大阪間が1時間で結ばれて、それがどうしたの?という人は多いのではないでしょうか」
とも話していた。
資金調達のあり方も疑問視。当初はJR東海が自己資金で建設する計画だったが、安倍晋三首相(当時)が16年7月の記者会見で、全線開業を最大8年間前倒しする(最速で37年に開業)ことを表明し、政府は財政投融資(財投)を活用して3兆円をJR東海に貸し付けた。この経緯について
「大体、税金を1円も入れないって話じゃなかったんですか?」
「いつの間に財投を使う話になったんです?そこはおかしくないだろうか、と思うんですね」
とも述べた。
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総裁選では軌道修正「JR東海のことだけを考えればいいわけではない」
ただ、総裁選に突入した頃から、軌道修正もうかがえる。静岡新聞によると、9月19日に行われた地方新聞社の共同取材で、石破氏は
「全国的なメリットについて、(政府とJRは)多くの人の理解を得る努力が必要」
などと話したといい、財投については、次の発言を報じている。これによると、財投の活用そのものを批判したわけではないようだ。
「公共性を持つ事業である以上、JR東海のことだけを考えればいいわけではない」
「リニア開業で得られたものを(経営が厳しい)JR北海道の支援に回せないかなど、日本全体にいかなるメリットがあるのか理解を求めつつ、開業を急ぐことが大事だ」
岸田文雄前首相は全線開業を最速で37年に実現する目標を繰り返し掲げており、この点は24年7月策定の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)にも書き込まれている。
石破氏の首相としての初会見では、リニアについて岸田政権の方針を踏襲するか問われ、
「私として、岸田政権が進めきた方針は踏襲していく」
と述べた。さらに、リニアの位置づけについて次のように発言。総裁選での発言に沿った内容だ。
「リニアというものが開業することによって、それが、リニアが通る地域のみならず、日本全国においてその効果が波及していくということを目指していかなければならない。それはリニアが通れば自動的にそうなるものではなく、リニアが開業することが日本全体の発展に資するものだ、ということを私どもとしてはきちんと実現していかねばならない」
その上で、
「私もこれから先、また、いろいろ研究をいたしてまいりますが……」
と前置きした上で、リニア開業後の東海道新幹線の活用法も検討する必要があるとした。
「リニアができるということによって、さらなる経済効果が発現するために…。例えて申し上げれば、東海道新幹線には輸送余力が生ずるものだ。これをいかにして活用するかということも含めて、リニアが通る地域だけがよくなればいい……そういうことではない、そういう経済効果もきちんと見据えたリニアの早期開業というものを実現していきたい」
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)