今回は、『「ToDoリスト」は捨てていい。時間も心も消耗しない仕事術』佐々木正悟著(大和出版)を紹介します。
著者の佐々木さんは、これまで「時間をうまく使う」「仕事のやる気を出す」「情報をシンプルに扱う」などといった仕事術についての本をたくさん書いてきました。
しかし、仕事術は「仕事を進める気持ちが十分にある」場合だけ有効なのであって、仕事をする気力がまったくなければ効力を発揮しません。
そこでそうした「そもそも仕事をする気に全然なれない人」のために、この本を書こうと思ったそうです。
▶前回:たった4日間で、時計の針を戻し若返る「毒出し」の方法とは。驚くほど体が軽くなる!
▼INDEX
1. ToDoリストは捨てていい
2. 私たちは、100分先の予測もままならない
3. なにが起きても「消耗しない」と決める
4. 「時間」を投資しない
5. どんな状況でも時間はいくらでもある
6. 本書のココがすごい!
1. ToDoリストは捨てていい
一般に多くのビジネス書では、「リストを作り、それを実行する」ことを主張します。
たしかにそれはそれでいいでしょう。うまくいく限り、やって損はありません。
しかし、「仕事が捗らない」「タスクリストに沿って行動できない」「リストのどれにもまるで手をつける気になれず、ゴロゴロしているだけで1日が終わってしまう」と嘆く人たちを、私はたくさん見てきました。
そんな人たちに、伝えたいことがあります。
「ToDoリストは捨てていい」ということです。
タスクが減っていかないとか、期日に間に合わないときに必要なのは、タスクやリストアップの計画の立て直しではありません。「考え方」を変えることです。どう変えるかというと「現実を受け入れるように変える」のです。
「終わらせられた仕事」だけが「現実に終わらせられる分量」のはずです。
私たちは計画やタスクリストにのめり込む傾向があります。それには、「期待」や「欲望」を込めるからです。
「できなかったリスト」ということは、非現実的で、まともなリストではなかったわけです。できなかったものを「誰でもできて当然のリスト」と勝手に決めつけて、「それすらできなかった私」を批判したり嫌悪したりするのは、まったく意味のないことです。
これらの「できない自分に対する自己嫌悪」や「うまくいかないかもという不安」「締め切りに間に合わない恐れ」などを手放しましょう。
手放すことができたら、心は消耗しなくなります。
今回はこの「心の消耗を手放す方法」にフォーカスして、本書からピックアップして一部紹介します。
2. 私たちは、100分先の予測もままならない
たとえば、「朝6時前に起きて、最寄りの駅を午前7時50分に発車する電車に乗れるか」を考えてみます。
出発までおよそ2時間もあるのですから、「余裕」と思われるかもしれません。しかし実際には、少しの余裕もないのです。
・起床後の着替えとトイレと洗顔 19分
・髭剃りと髭剃り後の掃除 10分
・コーヒーをいれて朝食を用意する 10分
・朝食と歯磨き 37分
・トイレ 10分
・着替え 6分
・必要な持ち物の用意 7分
・出発準備 5分
・徒歩まで駅までの移動 15分
すべてを合わせると119分です。
つまり2時間前に起きてちょうどいいのです。起床してすぐのときには、「うまくいけばやれそうだ」と考えていた「ちょっとした仕事」や「散歩」などどうやっても盛り込めません。
このように、決まりきった用事をただひたすら実行するだけの100分先の予測すら、私たちにはままなりません。
それなのに「来週までにこの仕事ができる?」と、上司から問われて正しく答えられるでしょうか。
まして100日後を締め切りにして、それで日数が足りるかどうかなど決してわかりません。
にもかかわらず私たちは、
①仕事にかかる時間を見積もりたがる
②その見積もりは「おおよそ正しい」と信じてしまう
ものなのです。まず私が提案したいのは、①と②を両方とも徹底的にやめることです。
作業にかかる時間を見積もり、その見積もりを信じようとする限り「心の消耗」を避けることはできません。
多くの仕事や致命的な出来事に襲われると、その人の「心の許容量」を超えてしまうことがあります。許容量を超えなくても、ギリギリの負担が続くと「心は消耗する」と考えてください。
多くの人は「だから消耗しないために時間の余裕をもつべきだ」と考えてしまいます。しかし、その考えだけではうまくいかないでしょう。理由は繰り返しになりますが、私たちは誰もが「仕事にかかる時間を見積もり、その数字を信じたがる」せいです。
人間には「タスクにかかる時間を見積もる能力」はありません。先を読む予知能力もまったくありません。しかし「私にはある!」と信じる傾向が強いのです。以上を前提としなければなりません。
3. なにが起きても「消耗しない」と決める=「間に合うはず」と信じるのをやめる
「わたしたちは誰もが時間を見積もりたがるが、その予想は正しくない」と前述しました。
ここで大事なのは、仕事の約束を守れなかったり、締め切りを破ってしまったりするアクシデントは必ず起こるが、そのことで心を消耗しないということです。
だから「心を消耗しない」と自分で決めるのです。ここで揺らぐと「心の消耗」から逃れられる日は永遠に来ないでしょう。
そもそも「間に合うわけがない」と心の準備をしておけば、締め切りを守れない可能性が出てきても、そのことを自分の心で受けとめることができれば、心は消耗しません。
もしあなたが、電車の時間に間に合うか乗り遅れるか、社内プレゼンの準備をどうするか、などといった具体的でちょっとした計画を立てたくなったら、時間の見積もりを含んだ細かいリストを作成してみましょう。
そして実際はどうだったかを、つぶさに観察して記録しましょう。
まず100パーセントといっていいほど、最初の予想は無茶苦茶なはずです。それでも予想するのは、やめられないでしょう。誰もがそうなのです。
繰り返しますが誰もが
①仕事にかかる時間を見積もりたがる
②その見積もりは確実に間違っているが「おおよそ正しい」
と信じてしまうものなのです。
「心を消耗しない」と自分で確定できれば、締め切りや時間のことで自分も他人も責めなくなります。責めなければ、消耗もめっきり少なくなるはずです。
4. 「時間」を投資しない=ダラダラ漫画を読むことも必要な時間
職場で自分を取り繕うと、人は消耗します。
少しでも早く回復するために、帰宅してからしばらくはダラダラしたいものです。そこでやっと「本来の自分」が生き始めるのです。
あるがままの自分を押さえつけ、ムリな我慢を自分に強いれば、誰でも必ず消耗します。
職場から出たら徹底して「本当は私はいまなにをしたいのか?」だけを自問しましょう。そのことだけに集中してみるのです。
スマホでマンガを読みたいのが本当の気持ちなら読みましょう。カツ丼が食べたいなら食べましょう。
「それでは時間がもったいない」とか「健康に悪い」とかいった「概念」に惑わされないようにしてください。これらの「概念」の多くは、「世間からのアドバイスだ」とあなたが信じている言葉のことです。
たとえば、私は運動をしませんし、英語や中国語といった語学の勉強もしません。デザインやプログラミングのスキルを身につけていません。
投資もしていなければ、老後に備えた貯蓄もまったくありません。
人生の目標はなにももっていないし、明日の計画すら立てていません。記録もメモもほとんど手元にはありません。
以上のどれもなんの自慢にもなりません。
ただ私は50歳になり、「“未来への投資”という名目で現在の時間を少しでも犠牲にするのは虚しいものだ」とつくづく思い知ったのです。
「未来への投資」が十分に意味をなすには、わずかにせよ先が読めなければなりません。
日本人の多くがいまもなお、英語の勉強に精を出すのは、将来の役に立つと思うからでしょう。5年後には世界で誰も英語を話さなくなるのが確実になったら、英語の学習産業はただちに崩壊するはずです。
私は未来をまったく読めません。1分後もわかりません。「老後」に至っては存在すらあやしいものです。
私は40歳になった頃に「未来への投資」を諦めました。するとたちまち、少なくともそれまで経験しなかったほど心が穏やかになりました。
ここで伝えたいのは、「未来への投資」は「消耗コスト」を伴うというひとつの事実です。「投資」の時間は「犠牲」の時間でもあるのです。
犠牲はなるべく減らしたいものです。減らすのはムリでもむやみに増やさないようにしましょう。それだけでもぐっと心の消耗をおさえられるようになります。
5. どんな状況でも時間はいくらでもある
「時間はなくならない」「時間は豊富にある」と私がいくら主張しても、信じてもらえません。私たちは「時間が足りない!」という考えを叩き込まれてしまっているからです。
私は人生のどんな時期にも、およそ「時間がなくなった」経験はまだありません。
もちろん「締め切りまでの日数が足りなくて忙しい」との気持ちに焦らされたことはあります。とはいえ、それはあくまでも「締め切りまでの日数」が少ないのであって、時間がないのとは根本的に異なります。たとえ原稿の締め切りを迎えてしまったとしても、時間はなくなりません。
私は原稿の締め切りが過ぎても、原稿を放置して家族でディズニーランドに出かけることだってできます。これが時間を使えるという意味です。
でも、そんなことをしたら良心が咎めるでしょう。だから「心が消耗する」のです。
「良心が咎める」のと「時間がない」のを、ごちゃまぜにしてはいけません。
多くの人が、時間のやりくりに気をもむのは、締め切りを破る罪悪感を持ちたくないからです。
つまり良心が咎めないようにするために、私たちは時間のやりくり上手になりたいわけです。そのために「時間術がある」と思い込んでいます。
しかし、それはまったくの誤解です。世に時間術はそれこそ豊富にあり、しかもいずれの時間術でも「時間がない問題」は解決されていません。あいかわらず人々は締め切りに追いまくられ良心が咎め、心を消耗しています。
「時間術」に期待するのは、もうやめましょう。すでに述べたとおり、そもそも締め切りの設定が間違っているのです。
しかし、締め切りを正しく設け直す権力がないとしたら、いったいどうすればよいのでしょうか。
その答えは、「良心を痛めないこと」に尽きます。
締め切りまでの日数が足りなくても、時間は豊富にあります。心ゆくまで時間を使って仕事にじっくりと取り組まれます。それでは締め切りに間に合わないかもしれません。しかしそこで焦ってはならないし、心を痛めても意味がありません。
他人からキツく叱責されたり、メールで厳しいことを書かれたりするのを怖がらなくて大丈夫です。そんなものは「音声」にすぎず「テキスト」にすぎません。
本当に「恐れ」を排除できて、心のスペースに余裕が生まれたら、そのスペースを使って仕事をグンと進められます。
◆
本書の主張には首をかしげる人も多いでしょう。
一般の仕事術はもう少し、「目標」や「計画」を大切にします。
その点、私は2日目以降の計画を立てることを勧めませんし、個人的には目標を一切持ちません。また「時間は希少価値があるから大切にすべき」というのも常識です。
しかし本書の主張は、それとは真逆です。「時間はいくらでもあるのだから、好きなように好きなだけ活動すればいい」というのが私の言いたいことです。
さらに、時間を投資しないとも言っています。こう考えるに至った理由があります。
30代後半の頃、アメリカで心理学を勉強して帰国したあとに、ようやく私は社会人としてまともに働き出しました。
当初はごく普通の「仕事の仕方」でオンラインの連載を書き出しました。しかし急速にこのやり方ではいけないと思わざるを得なくなりました。
それまでの長期計画を1週間に縮小し、逆算をやめ、目標設定は捨てました。私は24時間で72時間ものタスクを実行する気でいたのです。リストの項目はごっそりと減り、「やりたいこと」も消え失せました。私は諦めることを学んだわけです。
「やること」より「やらずに済ませること」をはっきりさせるのです。
私はプログラミングと英語とデザインスキルとアナログを捨てました。するといわゆる「費用対効果」は抜群に高まり、日々の大量のタスクが魔法のように片付くのでした。
その流れに乗るようにして、仕事が次々に舞い込みお金にはまったく困らなくなりました。
6. 本書のココがすごい!
今回紹介した『「ToDoリスト」は捨てていい。時間も心も消耗しない仕事術』佐々木正悟著(大和出版)のすごいところは下記に集約される。
①これまで時間術や仕事の効率化というテクニックについての著書を出してきた佐々木さんが発する『「ToDoリスト」は捨てていい』という言葉には重みがある。まさに時間も心も消耗しないということが、仕事術において大事だということを痛感できる。
②今回は紹介しきれなかったが、消耗する“人間関係“をやめるということも仕事術で大事なことだと気付かされる。
【著者】 佐々木正悟(ささき・しょうご)
1973年北海道生まれ。タスクシュート協会理事。ビジネス書作家。
1997年 獨協大学外国語学部を卒業。
2004年 Avila University心理学部を卒業
2022年 タスク管理・時間管理術であるタスクシュートの普及と、自分らしい時間的豊かさの提唱を目的として「一般社団法人タスクシュート協会」を設立。タスクシュートのユーザー数は、25,000人を超える。
著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(ともに共著、日本実業出版社)、『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』(中経出版)、『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などのほか、『iPhone情報整理術』(共著、技術評論社)がある。
X:https://x.com/nokiba
公式HP:https://nokiba.github.io/index.html
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