個人事業主として自己裁量で働く「業務委託契約」でありながら、過重な労働を強いられているとして、ショッピングサイト「アマゾン」の商品配送を請け負う会社と契約を結ぶ配達員らが超過労働分の残業代の支払いを求め、会社を提訴した裁判の第1回口頭弁論が10月3日、横浜地方裁判所(眞鍋美穂子裁判長)で開かれた。
注文した商品が、早ければ翌日にも手元に届くアマゾン。日用品や家電など、販売されている商品の数は国内だけでも約2億点に達するとされる。しかし、そのサービスの背景の一部には配達員らの過酷な労働状況があるようだ。原告の配達員らは意見陳述で“ブラック”とも言える実態を語った。
配達業務が1日15時間に及ぶことも
16人の原告はいずれも配送倉庫の三春センター(神奈川県横須賀市)を拠点に、アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン」の商品配送業務にあたっている。彼らは過重業務に伴う割増賃金(残業代)の支払いを求め、業務委託契約を結ぶ株式会社Gopal(旧若葉ネットワーク)や、そのさらに下請け会社を相手取り、今年5月24日に提訴していた。
原告らは10月3日の口頭弁論で意見陳述を行った。このうちAさんは、就業環境が厳しくなった経緯を説明した。
2020年1月から配達員として業務を行っているAさん。当初は、荷物1個あたりの配達で報酬が決まっていたが、同年5月、アマゾンの配達管理のAIシステム導入に伴い、効率的な配達ができるとの理由から、報酬が日給制に変わった。
つまり荷量がどれだけ増えようが、報酬は一定額となったということだ。しかし、その一方で荷量は減るどころか、むしろ増加した。
Aさんによれば、それまで1日に配達する荷物の数は80~140個程度だったが、AIシステム導入後は160~220個、セール時などは300個に及ぶこともあったという。
「配達が終わるまでは帰って来ないようにと命じられていることもあり、朝8時から夜23時まで配達をしなければならないこともありました」と、Aさんは15時間にもおよび勤務を余儀なくされていたことを語った。
骨折した腰の痛みを押して配達続ける
過重な荷量は、配達員の心身にも影響を与えている。
原告Bさんは2022年9月、「少しでも早く配達を終わらせたい」と焦るあまり配達先の玄関前階段の最上段(15段目)から足を滑らせ、地面に転落。腰椎圧迫骨折を負った。
2か月にわたる休業後に配達を再開したものの、「腰の痛みが続いていましたが、痛みを押して配達するしかありませんでした」(Bさん)。
個人事業主のため本来は対象外となる労災だが、Bさんは横須賀労働基準監督署に申請。同監督署は、Bさんの業務実態について、実質的には会社から指揮監督を受けていたとして、労災保険法上の「労働者」と認め、休業補償の給付を決定した(23年9月)。
「原告らは労働基準法にいう『労働者』そのもの」
原告代理人の中村優介弁護士は、今回の訴訟でも労働者性が争点のひとつになると説明。
その上で、原告らについて「業務委託契約で働いているものの、労働実態に照らせば労働基準法でいう『労働者』(※)そのものです」と主張した。
※労働基準法第9条「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
また、その根拠について、中村弁護士は主に次の3点を挙げた。
①配送するコースおよび荷物量について、諾否の自由がない。
②被告らは、原告らに対して、配送方法に関する具体的な指揮命令を行っている。(GPSによって各配達員の業務の遂行状況を把握し、原告らに対し、連絡、指示等を行っていることなど)
③被告らは、原告らに対し、1週間の労働時間を60時間以内、1日12時間を上限として、エクセルで労働時間管理表を作成し、各配達員の労働時間の管理も行っている。
「多くの軽貨物配達員にも認められるべき」
グローバル企業の過剰とも思えるサービスが“しわ寄せ”となって、配達員にのしかかっていないか。
アマゾンジャパンは配送の委託先会社に対し、週60時間以内の労働時間制限を設けているが、原告Bさんは「とても週60時間で配達をすべて終えることはできません」と話す。
この問題は、何もアマゾンの横須賀地区に限った話ではなく、全国で配送等を請け負っている個人事業主が直面しているものではないだろうか。
中村弁護士は陳述の最後に、裁判官にこう訴えた。
「本来であれば労働者に支払われるべき時間外労働に対する補償としての割増賃金の支払いが、原告らに対してはもちろんのこと、原告らと同様の働き方をする軽貨物配達員にも認められるべきであることを付言します」