全国労働組合総連合(全労連)や全国労働組合連絡協議会(全労協)など複数の労働組合から構成される「雇用共同アクション」は10月3日、東京・霞が関で会見を開き、労働基準法の見直しを進める厚生労働省に対し、議論の転換を迫った。
厚労省主導「約40年ぶり」となる労基法改正など議論
厚労省では今年1月から、労働法学者ら学識経験者による「労働基準関係法制研究会」を立ち上げ、実現すれば「約40年ぶり」となる労働基準法の改正を含め、法整備・法改正に向けた議論を開始。
労働組合の組織率低下や、テレワークの普及、デジタル化など、労働環境が多様化する中で、今後の労使間コミュニケーションや、労働基準のあり方などを検討している。
研究会での議論を受けて、雇用共同アクションは今年7月、厚生労働省や研究会の構成員に意見書を提出。10月にも補足意見をまとめていた。
労働基準が「絵に描いた餅」になるおそれ指摘
雇用共同アクションが特に問題視しているのは、研究会での議論が「デロゲーションの容易化、運用拡大」「同意権のはく奪」「規制単位の見直し」につながるのではないかという3点だ。
デロゲーションとは「規制の逸脱」や「適用除外」を意味する。現行の労働基準法でも、時間外労働を許容する36協定の締結など、使用者側と労働者側が合意をした場合に、労働基準を下回る「デロゲーション」を認める仕組みがある。
雇用共同アクションの伊藤圭一事務局長によると、研究会では次のような意見が出ているという。
・今の労基法は工場労働が前提となっている古い制度だ。現代は働き方が多様化しており、画一的な労働基準では現場はまわらない。
・基準を職場に合わせて労使とカスタマイズすること、それが「デロゲーション」だ。
・法律を労使合意で柔軟化する「デロゲーション」という仕組みに注目すべきだ。職場にあわせて、労使がルールメイキングしていくというのが、約40年ぶりの労基法改正で最大のポイントとなる。
伊藤事務局長はこれに対し、以下のように危惧を示した。
伊藤事務局長:「一律の基準をやめ、現場に合わせて労働基準をカスタマイズすると言われると、良い話のように聞こえます。
ですが、労働基準とは本来、最低限守られなければならない規制です。
それを現場の労使が作ることになれば、規制が『絵に描いた餅』となってしまうおそれがあります」
「使用者側の支配強化」につながる意見も
研究会では「デロゲーション」の議論にあわせて、労働者側の持っている同意権(拒否権)の「はく奪」とも捉えられる意見が出てきたという。
伊藤事務局長:「デロゲーションは使用者側と労働者側の合意が要件となっています。
ですが研究会では、『企業の内部のルールを作るための労使の話し合いであれば、使用者側に決定権を持たせ労働者側の意見を聞くという形でいいのでは』という意見が出ていました。
さらに、ほかの方の意見では『労使がコミュニケーションを丁寧にとり、健康経営と労働時間管理ができている場合には、デロゲーションを認めればいいのでは』という声もあがっています。
これらの意見は労働者側の同意権(拒否権)をはく奪するものであり、使用者側による支配強化にほかならないのではないでしょうか」
規制単位の転換「現行制度の有効性失いかねない」
また、労働基準法の適用を、現在の「事業場単位」から「本社単位」に転換しようという意見についても、伊藤事務局長は、規制の有効性が損なわれるおそれがあるとする。
伊藤事務局長:「現行のシステムでは、全国321カ所に設置された労働基準監督署が、各事業場の実態を見ながら監督指導を行っています。
ですが、企業・本社ごとに規制を行うべきだという要望が、日本経済団体連合会(経団連)から出ており、研究会でも一部の構成員から意見があがりました。
企業・本社単位の規制を推奨する背景には、トップダウンで労働基準法違反の根絶を指示することへの期待や、デジタル化により、例えばテレワークで全員が働いているなど、事業場がないビジネスが生まれていることがあります。
しかし、労働者側が本社に呼ばれてコミュニケーションをとるとなれば、本社の意向に丸め込まれてしまうのではないかという不安があります。
また、現状でも、事業場に対する規制とあわせて、本社への監督指導も行われており、企業・本社ごとでの規制に変えてしまうことで、かえって有効性を失いかねません」
「誰のための改正か考えて」
伊藤事務局長によると、厚労省の研究会では、まもなく議論のまとめに入るとのことだ。
伊藤事務局長:「研究会の議論では、週44時間労働の特例措置を無くすことや、家事使用人への労基法適用など、ぜひ実現してほしい意見も出ています。
しかし、医療・介護現場での夜勤規制や、16時間連続勤務の規制など、実際の労働者が求めている改正ポイントが無視されています。
研究会には、今一度誰のための労基法改正なのかを考えてほしい」