10月4日、いわゆる「袴田事件」の担当弁護士と支援者が会見を開き、再審で争点となった血痕の「赤み」に関して行われた新鑑定について説明した。
袴田事件の概要と無罪判決までの経緯
「袴田事件」は、1966年に静岡市清水区(旧:静岡県清水市)で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件。
1980年、被告人として起訴された袴田巌(はかまた いわお)さんの死刑判決が最高裁で出されたが、2014年に静岡地裁が再審を開始。2018年に東京高裁が再審請求を棄却したが、2020年に最高裁が審理を差し戻し、今年9月26日に静岡地裁が再審無罪の判決を言い渡した。
しかし、今後検察が控訴(異議申し立て)を行った場合、再審公判が終わらず、高裁での審理が継続してしまう。
会見で、加藤英典弁護士は控訴を阻止するためのオンライン署名が現在4万人を超えていると述べ、「ぜひ5万人以上を目指したい」と、さらなる署名協力を呼びかけた。
「再審公判では、ほぼゼロから裁判をやり直した。事件当時に行われた裁判を繰り返したようなもの。
検察官には、主張・立証の機会はもう十分に与えられてきた。実際問題、控訴したところで、これ以上に立証することはないはずだ」(加藤弁護士)
争点となったのは血痕の「赤み」
再審では、袴田さんが逮捕されてから約1年2か月後に現場近くのみそタンクから発見された、犯人のものとされる5点の衣類に付着した血痕の「赤み」が争点となっていた。
弁護側は、どのような条件でも血痕は短期間で黒褐色に変色するにもかかわらず、みそタンクから見つかった衣類の血には「赤み」が残っていたことから、証拠がねつ造された可能性を主張。
一方、検察側は専門家の意見を基に独自の実験を行い、6か月間みそに漬けた血痕に「赤み」が残っていたケースもあったと反論。
また、衣類の血痕を撮影した写真は半世紀以上前のものであるため、時間経過により写真自体が変色している可能性や、当時の技術的制約や撮影時の照明などの問題により正確な色が写真に反映されていない可能性が指摘されていた。
2014年の二次再審請求審では「ネガの保存状態はとても良好」として、写真自体の変色はないと判断される。
そして、今回、弁護側は「光学」の専門家に依頼し、写真内の「色度値」を比較することで照明などの影響を受けずに色を判定するための新鑑定を行った。
「光学」に基づき色を数値化、証拠のねつ造を立証
光学とは、光の性質や光と物質の相互作用などについて研究する学問。そして、「色」とは光の波長である。新鑑定では「CIE1931xyz表色系」を用い、写真の色を数値化し特定した。
衣類に付着した直後の新しい血痕は「彩度」(鮮やかさの度合い)が高いため赤色だ。しかし、みそに漬けられたまま時間が経てば血痕の彩度は低下し、黒色になっていく。一方で、衣類の白い生地はみそに染まって黄色くなっていき、彩度も上昇する。
ところが、鑑定の結果、証拠写真の衣類の血痕は1年2か月みそに漬けられたと主張されているにもかかわらず、彩度が高いままだった。さらに、生地の彩度もほぼ上昇していなかった。
以上の点から、証拠として提出された衣類は短期間みそに漬けられただけであり、ねつ造されたものであることが証明される。
「袴田さん支援クラブ」広報担当の白井孝明さんは「衣類のねつ造という事実は、科学的な検証によって、より盤石になった。この証拠についてこれ以上争うのは、まったく時間の無駄だ」と、新鑑定の意義を強調した。
また、小川秀世弁護士は「通常、色を判断するためには、主観的な部分がどうしても混ざってしまう。今回の新鑑定は、色の問題を定量的・客観的に明らかにした点が画期的」と語る。
「今後、国賠訴訟などを行う場合には、国側がねつ造を行った証拠として新鑑定を使用することになるだろう。
こちらには強力な武器があるんだと、検察側に伝えたい」(小川弁護士)