本誌『パリのサンドイッチ調査隊』、ウェブ『真似をしたくなる、サンドイッチ』の連載番外編。パリ郊外にあるファーム・レストラン『ル・ドワイヤネ』では、食事を予約すると泊まれるゲストルームの、朝食でしか味わえないタルティーヌがあります。番外編では、パリでは決して出合えないであろう、採れたての野菜をのせた季節のタルティーヌにまつわる便りを、お届け。今回は第2回です。
太陽をたっぷり浴びて育った、露地栽培の野菜。
6月から2〜3週間おきに菜園を訪ねるようになって、はや4か月が経とうとしています。その影響か、少し、季節の感覚が変わってきました。これまで、マルシェで野菜や果物を見て感じていたよりも、ずっと早く季節が移行しているのを目の当たりにしている気がします。それはたぶん、『ル・ドワイヤネ』ではすべてが、ビニールハウスではなく露地栽培だから。苗は、レストラン棟から見て、菜園の奥にある密やかな温室で育てられているものもありますが、畑に植え替えられたものは、太陽を直に浴びて育っています。
私自身、買い物をするのはいつも、マルシェに出店するパリ近郊生産者のスタンドです。その中にハウス栽培ものと露地栽培もの両方を店頭に並べている人がいます。やはりハウス栽培ものは、手に取れる期間が長いです。市場に出て来るのも遅く、そして気づくとなくなっている露地栽培もののほうが、ぎゅっと詰まった味で、匂いと風味の違いをたとえるなら、布団乾燥機にかけた布団と、お日様で干した布団の違いに通じるものがあると思います。『ル・ドワイヤネ』は、主にレストランで使う素材を栽培しているから、野菜と果物の種類が豊富です。そして、それぞれの生産量は多くない。つまり、サイクルがとても早い。特に果物は、3週訪れずにいると、青い実がついていたはずなのに、全て収穫されて一つも残っていなかったりするくらいです。
『ル・ドワイヤネ』の朝食ルーム。
やわらかな光が差し込んでくる。
そんなわけで、菜園を巡ると、その日のタルティーヌに使われた素材はもとより、まだ熟していない果物や、育ちきっていない野菜にも目がいきます。夏から秋の始まりにかけて3度訪れた菜園の様子と、そこで採れた産物で作ったタルティーヌは、こんな感じでした。
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2024年8月2日
ブラックベリー収穫中。右はラズベリー。
一つだけ食べられそうな桃をを発見。
トマトもまだ青いが、こちらも食べられそうなものを発見。
この朝、菜園に出ると、ちょうどスタッフがベリーを収穫しているところでした。赤い実はフランボワーズかと思っていたらブラックベリー。市場では6月に入った頃からフランス南部で生産されたものが出回りますが、パリ近郊で自然の気温に任せて育てたら、この時期に採れるのだと実感しました。生い茂る葉のなかで、ピカンと輝いたぷりっぷりのなすや、元気よく伸びるとうもろこしを観察していたらシェフが様子を見にやって来て、他のエリアも一緒に回ることに。まだ全体的に青いけれど、一つだけ食べられるくらいに熟していた桃を見つけ、シェフはアイデアが浮かんだようです。色味の合いそうな黄色いトマトを一つと、戻りがてらハーブも摘んで、それらでタルティーヌをつくってくれることになりました。