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●日々の調理に欠かせないキッチンアイテム。その中でも、多くの人々に支持されているのが『富士ホーロー』のホーロー製品です。時代を超えて愛されるその魅力を探りました。

 高いデザイン性と機能性を併せ持ち、多くの人々に愛されているホーロー製品。コップやお鍋、保存容器など、長年愛用しているという人も多いのではないでしょうか?

 今回、その理由を探るべく、国内最大級のホーロー製造メーカー『富士ホーロー』を訪れました。ロングセラーやキャラクター商品、最近では「角形天ぷら鍋」も大人気で、SNSがバズったことでも話題を集めています。そんな同社の営業マーケティング部・玉生三夏さんに、ホーロー製品の愛される理由や人気アイテムなどについてお話を伺いました。

デザインから製造まで一貫して社内生産できる『富士ホーロー』の強み


創業75周年を記念して1970年代に人気だったシリーズを復刻させた「メモリーズ」。大人には「懐かしい」、若者には「レトロかわいい」と話題に

――富士ホーローの製品は幅広い世代に愛用されていますが、創業当初からキッチン用品を作っていたんですか?

玉生さん:弊社は1947年に創業、今年で77年目を迎えました。今でこそお鍋やケトル、保存容器といった家庭用品がメインですが、もともとは厨房機器や浴槽、建築用のパネルなど大きなものまで製造していて、そこから少しずつ需要の高い家庭用品に特化するようになりました。

富士ホーロー』はデザインから製造まですべての工程を一貫して社内で行っています。外部に受注することが多い「製品の金型作り」も社内でできるので、コストが抑えられ、スケジュールコントロールもしやすいというメリットがあります。つくばとタイに直営工場があり、ほとんどの製品はタイ工場で作られ、デザインを含む製造以外の業務は日本で行われています。

――すべて社内で完結できることは強みですね。それは新しいプロダクトを出すまでの速さにも繋がっていますか?

玉生さん:そうですね。新製品を出す際、まず設計図(デザイン)の製作に時間がかかると思いますが、弊社はプロダクトデザイナーも社内におり、ベテラン勢は製品の構造を熟知しているので、「これはできる、できない」「ここをアレンジしよう」というやり取りもタイ工場との数回で済むんですね。もちろん試作は繰り返し行われますが、設計図が完成すれば数カ月で商品化できるのはかなり速いと思います。

手作業の丁寧な仕上げが作り出す美しいたたずまい


大人気の「メリーシリーズ ドリップポット」(左)と「ムーミンハウス ケトル」(右)。柄の転写紙はタイ工場のスタッフが全て手作業で貼りつけているそう

――家庭製品が増えてくる中、型のバリエーションも増えて来たのでしょうか。

玉生さん:型自体は昔からほとんど変わりはないんです。色を変えたり、柄を今っぽくしたり、つまみやハンドルの形を少し変えたり、ディテールを時代に合わせて変化させています。本体と蓋の組み合わせや、ハンドルの取り付け方でだいぶ表情が変わるので、型も新しくなったように見えるのかもしれませんね。

――現在、デザインのシリーズはいくつ出ていますか?

玉生さん:ムーミンやミッフィーなどキャラクターもの、オイルポットのような用途別のシリーズも合わせると25くらい。弊社は花柄やキャラクターなど、プロダクトにさまざまな柄が入っているのが特徴で、柄の転写紙はタイ工場のスタッフが手で貼って作っているんです。

――柄の転写紙を手作業で貼っているとは驚き!

玉生さん:そうなんです。転写紙を貼り、それを窯に入れて焼き付けているので、まず取れません。ムーミンハウスのドリップポットのようなぐるっと1周巻いている柄は、継ぎ目が分からないように貼りつけているんですよ。外側の色も機械ではなく、ほとんど人の手で、製品一つひとつ釉薬を塗った後、焼成して仕上げています。


カプセルトイには実物と同じデザインのミニチュアサイズが(写真はムーミン・くまのプーさんシリーズ)

――祖母の代から使われている富士ホーローのお鍋を持っているのですが、今も綺麗なまま現役で活躍しています。

玉生さん:釉薬はガラス質で、それを金属の上からコーティングしたものがホーローです。表面はピカピカしていてずっと綺麗なので、ケトルのようにしょっちゅう使うものをコンロの上に出しっぱなしにしてもキレイだし、かわいく見えるんですよね。繊細な柄や美しい発色のアイテムは、置いておくだけでインテリアにもなりますよ。

 鉄×ガラスという丈夫な素材は衝撃がかからないと壊れないので、おばあちゃんの代から使っているものが未だにピカピカした状態で変わらず使えるんです。そういったところがみなさんに長くご愛用いただけている理由の一つだと思います。


「角型天ぷら鍋」と「みそポット」。シンプルな佇まいと使いやすさで大ヒット!

――調理器具としてのホーローの魅力とは?

玉生さん:熱が均一に伝わりやすく保温性が高いところですね。弊社ではほうろう用鋼板という1枚の鉄板から製品を作っているので、軽くて使いやすいです。また、ガラス質の表面は洗えば油汚れがすっきりと落ちてニオイがつきにくい特性があるため、保存容器にキムチを入れたり、お鍋でカレーを煮込んでも中性洗剤で洗えばニオイが取れます。ガスコンロだけでなく、IHとの相性がいいところも現代のニーズに合っていると思います。

――ホーロー製品の用途はかなり広い印象ですが……。

玉生さん:オーブンにも入れられるので(一部除く)、パンやお菓子も焼けます。ガラス質で衛生的なため離乳食作りにも使われていますね。ただ、お肉(タンパク質)を炒めるとくっついてしまうので、そこだけ理解していただければ、あとはマルチに使いまわせますよ。

――「角型天ぷら鍋」が大ヒットしていますよね。

玉生さん:今まで角型の鍋はなかったですし、とにかく形がウケているようです。バットやスノコ、温度計付きで、すぐに揚げ物ができるのも嬉しい。何よりコンパクトで収納に便利です。油を入れたまま蓋(バット)をすれば保存でき、バットはオーブンディッシュとしても活用できますよ。

――使い勝手が良すぎて、「ちょっと揚げ物しちゃおうかな」と気軽に思えていい(笑)!

玉生さん:そういう方は多いですね。あと人気なのが「オイルポット」! 揚げ物周りばかりで恐縮です(笑)。揚げ物はみなさんお好きだと思いますが、キッチン周りが汚れるとか、油の処理が面倒くさい、温度管理が分からない……など億劫になってしまいがち。それをクリアにしてくれる一つがこの商品かもしれませんね。


マグカップや片手鍋が大人気の新商品「ムーミン フラワーガーデンシリーズ」。ミッフィーやモンチッチシリーズなどもある

――ロングセラーの製品・シリーズは?

玉生さん:先ほどお話した「メリーケトル」は不動の人気です。あとは「フルータスコレクション」や、「みそポット」ですね。「みそポット」は750gの味噌パックがそのまま入るサイズ。みそポットに入れて密閉蓋をすれば、乾燥と酸化を防げます。

――「みそポット」という分かりやすい名前がいいですよね。

玉生さん:「みそポット」「天ぷら鍋」というストレートなネーミングのほうが、使い方をイメージしやすいみたいです。例えば「角型ポット」という名前だと、逆にどう使ったらいいか分からないもの。まずは「みそポット」として使ってもらい、そこから用途の幅を広げていく。ネーミングはとても大事ですね。

SNSでユーザーの声を聞きながら、使いやすさとトレンド感にこだわっていきたい


左側の4色は丸みのあるフォルムがかわいらしいニュアンスカラーの新商品「コットンプラスシリーズ」

――新しいシリーズを教えてください。

玉生さん:今年、以前から出ていたニュアンスカラーの「コットンシリーズ」がリニューアルしました。トレンドのグレージュやパープルが加わり、本体の内側にメモリを付けたり、蓋を少し丸くして変化をつけたのですがおかげさまで大変人気です。

――近年はSNSもとても話題になっていますね。

玉生さん:ショールームの写真を載せたところ、とても反響がありました。私たちは毎日見ているので気が付かなかったのですが、弊社の商品が一堂に会している場所が市場にはないんですね。専門店でもばらばらに置かれていて、ミッフィーだけ扱っているとか、百貨店だとシンプルなものだけとか。なので「これ持っている」「実家にある」というお声がたくさん届きました。

――家の調理器具、実は富士ホーロー製品だった! と気づいたんですね。

玉生さん:そうなんです。「商品の裏を見てみたら富士ホーローと書いてあった」ということはよく言われますね。SNSを通じて弊社のものという認知が高まったことは、とても嬉しいです。


非公式キャラクターの「お鍋ちゃん」(左)と「ココットぐま」(右) [食楽web]

――SNSにはオリジナルマスコット(お鍋ちゃんとココットぐま)も登場して可愛いと話題ですね。

玉生さん:Xの2代目担当者が、富士ホーローの中で1番好きなアイテムをキャラクター化したもので、今のところ非公式キャラクターです。グッズ展開して欲しいというお声もいただきますが、しばらくは様子見ですね(笑)。

――新しいアイテムのヒントはどこから?

玉生さん:トレンドへのリサーチは欠かさず、新しい動きには敏感になるようにしています。お鍋の場合だと今どういった形や柄の需要が高いのか、用途などのニーズをいつも探しています。そういった意味でもSNSは有効で、意外な使い方はユーザーの方たちが教えてくださることが多いです。反対に先ほどの「みそポット」は、「直火が使えるのでインスタントラーメンも作れます」と発信したところ、反応が良く、そこからみそポットにホーロー蓋を組み合わせた「キューブクック」というお鍋も発売しました。

――今後のSNSの展開は?

玉生さん:SNSの発信はさらに強化していきたいと思っています。みなさんと直接コンタクトがとれる場所なので、大切にしています。新しいデザインの提案や、使いやすい、キレイ、かわいいと思っていただけるようなディテールへのこだわりも続けていきたいと思っています。

――最後に、玉生さんがお気に入りのアイテムを教えてください。

玉生さん:私が愛用しているのは、シンプルな14cmのミルクパン。ちょっと茹でるときや、しっかり煮込む料理以外なら何にでも使え、目安の目盛りも付いていて重宝しています。とても軽く、お茶碗を洗う感覚でパパッと洗えるのでおすすめですよ。

(取材・文◎松永加奈)

●DATA
富士ホーロー
https://www.fujihoro.co.jp/

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