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●一度は泊まってみたい憧れの宿。泊まれる料亭、新潟岩室温泉『高志の宿 高島屋』へ。明治天皇が御小休された部屋で至極の朝食を味わう。

国の登録有形文化財に指定された格式ある宿

 日頃の疲れを癒してくれる温泉旅館。特別な日や記念日、自分へのご褒美に、一度は泊まってみたい宿があります。そんな素敵なひとときが過ごせる素敵な宿を紹介します。

 今回は、新潟の奥座敷「岩室温泉」からお届けします。

 新潟駅から車で50分、開湯300年を誇る岩室温泉。硫黄と鉄が結合した黒湯が有名で、傷を癒す雁の姿が発見されたという逸話もあります。ここは新潟の芸妓発祥の地で、日暮れにはお座敷に向かう芸妓さんの姿も見られます。情緒溢れる街並みや情景が人気で、新潟の奥座敷と呼ばれる温泉街です。


黒湯のきめ細かい粒子が確認できる

 この温泉街の中心的存在なのが、泊まれる料亭『高志の宿 高島屋*』。270余年もの歳月を経た歴史的建造物で、国登録有形文化財に登録されています。温泉街散策のお客さんも宿の前で立ち止まり、写真撮影する人もいるほど。

*高=はしごだか


囲炉裏のあるくつろぎ処

 こちらは将棋の8大タイトル戦のひとつである「棋聖戦」や囲碁の「十段戦」の対局が開催される宿としても知られています。そして、“泊まれる料亭”と謳うだけあって、至極の一皿一皿を堪能できる宿なのです。


黒湯の岩室温泉では黒ビールも楽しめる

梁や造りなど創建当時の面影が残される駐蹕の間

 江戸時代の宝暦5年(1755年)に建てられた、主屋、土蔵、旧米蔵は国の有形文化財に登録されています。この長い歴史の中には、北陸御巡幸時に明治天皇が御小休されたことも。滞在された部屋は当時の状態で保存、「駐蹕(ちゅうひつ)の間」と名付けられ、現在は食事会場となっています。明日の朝はこちらで朝食との案内があり、テンションが上がりました。

花鳥風月を慈しむ、新潟食材で作る伝統的な日本料理


当日の仕入れで作るお献立

 朝食をご紹介する前に、ぜひご紹介しておきたいのが、夕食。その日に仕入れた新潟の食材で作る伝統的な日本料理です。目にも鮮やかで繊細な料理は、良きタイミングで一品ずつ運ばれてきます。


まずは酒菜で一杯

 新潟ですから、やっぱり食事とともに日本酒をいただきたい。そんな気持ちを察するように、運ばれてきたのは酒菜3種類。スモークサーモンの桂巻き、才巻海老の塩茹で、胡桃豆腐などが並びます。『高志の宿 高島屋』の魅力のひとつには、豊富で貴重な日本酒が楽しめること。「新潟でもトップクラスの品揃えですよ」と女将さんが話していました。


数多くの日本酒を用意

 まずは女将おすすめの日本酒「八海山特別純米原酒」をいただきました。山田錦を使用した辛さを抑えた深い味わいと軽さが特徴の純米原酒です。おすすめの飲み方は、キンキンに冷やすこと。冷凍庫で4時間冷やした「八海山特別純米原酒」は、冷たさを保てるようにと、お隣の燕三条で作られた錫(すず)の酒器で提供されます。飲んでみると、衝撃の美味しさ。こんな日本酒飲んだことない! キリリと極限まで冷やし、やわらかでキレ味は最高です。

 次に飲んだのは、「北雪YK35」というお酒。世界的な俳優のロバート・デニーロも愛飲し、自家用ジェット機で買い付けに来るとも言われている名酒です。こちらは、陶器の酒器で提供。 貴重な日本酒はもちろん、お酒ごとに酒器を変えて提供してくれるのも嬉しい限りです。


清汁仕立ての御椀

 旬の味覚を存分に味わえる見事な料理。この日の料理は酒菜から始まり、御椀、お造り、焼物、水菓子など8種類が提供されました。女将にメイン料理をお聞きすると、「日本料理には西洋の料理のように、これがメインというものはなく、全てを通して調和しているものです。でもひとつ挙げるとしたら、御椀なのかしら」とのこと。

 御椀の蓋を開けると、出汁の香りが立ち上がります。鰯の仲間に属される「ぎす」のつみれ、ずわい蟹の入った玉子締め、じゅんさいなどが入った豪華なもの。これは美味しい! 旨味が凝縮しながらも澄み切った味わいに感動。まさに渾身の逸品でした。


左:この日のお造りは鯛、黒睦、帆立の炙り。右:南瓜饅頭、冬瓜などの煮物

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【朝食】この一品のために宿泊したい!究極の茶碗蒸し


本日の朝食のお品書き

 昨夜の夕食の素晴らしさ、新潟の日本酒の旨さにまだ興奮冷めやらぬ状態で迎えた朝食の時間。会場は先にも述べた通り、明治天皇の「駐蹕の間」です。こんな素敵な場所でいただくとは! またしても興奮してきました。

 ランチョンマットを兼ねるお品書きには、「昔ながらの新潟の朝食をお召し上がりください」と書いてあります。


感動の朝食

 岩室産の大豆を使用した汲み上げ豆腐、鮭の味噌焼き、車麩の煮物、茶碗蒸しなど8品が並びます。お米は岩室産のこしひかり米で、ご飯に合うおかずがずらり。昔ながらの新潟の朝食と言いますが、その言葉では語り尽くせない地味深い美味しさ!

 長岡産の大豆を使用した納豆

 越後名物の車麩とししとうの炊き合わせ

 どれもとても美味しくて、朝から箸が止まりません。高島屋特製味噌を使った鮭の味噌漬焼きの上品な味わい、越後名物の車麩の炊き合わせはしっかりと出汁が感じられます。


具なし茶碗蒸し [食楽web]

 中でも感動した一品は、名物の「具なし茶碗蒸し」です。何も具材が入っていない、出汁と卵のシンプルな味なのですが、全ての調和が整っていて想像を超える美味しさ。この茶碗蒸しを食べるために、もう一度宿泊したいほど! 忘れられない朝食になりました。

まとめ

 国の重要文化財、黒湯、明治天皇の「駐蹕の間」、将棋や囲碁の開催場所など魅力いっぱいの宿ですが、何と言っても料理が素晴らしい! 泊まれる料亭の看板に偽りなしの至極の料理が楽しめます。夕食はもちろん、こんなに美味しい朝食は初めて。忘れられないあの茶碗蒸しのために、再訪しようと誓った宿でした。

●DATA
高志の宿 高島屋

住:新潟県新潟市西蒲区岩室温泉678
TEL:0256-82-2001
https://takasimaya.co.jp

●著者プロフィール

矢巻美穂(やまき・みほ)
国内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国、ウラジオストクなどのフォトガイドブックを執筆。近著は『東京で台湾さんぽ』(イカロス出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。