ソアヴェの第一人者として世界に名を馳せる「イナマ」。第一線で活躍する3世代目のアレッシオ・イナマ氏が来日し、ワイン造りの哲学や味わいの魅力を紹介した。
「私たちのワインを知るにはまず飲んでください」とアレッシオ氏。ワイナリーが最初に造ったソアヴェ・クラッシコ『カルボナーレ』の2021年はフレッシュだが重心がしっかりと備わった味わいで、飲んだ後に旨味のある塩味が表れるのが特徴だ。
「カルボナーレは東向きで、早朝だけ日が当たる畑。収穫時のブドウはマンダリンオレンジのような味で、酸味と塩味が備わります」。白身魚のカルパッチョやバッカラ(干し鱈)料理と相性がいい。
同じくソアヴェ・クラッシコエリアの『フォスカリーノ』は、南向きの畑「フォスカリーノ」で造られる、力強くふくよかさのあるワインだ。
「この畑のブドウはヘーゼルナッツの香りがするのが個性です」とアレッシオ氏。カルボナーレに比べるとより味わいの要素が強く、苦味や酸味がしっかりとしている。現在エミレーツ航空のビジネスクラスで採用されているという。
フォスカリーノ畑の上級キュヴェ『イ・パルキ フォスカリーノ・グランキュヴェ 2021年』はより良い房を選んで収穫し、その後粒単位で選果し、醸造する。年間1万2000本の少量生産だ。繊細な酸味が印象的なエレガントな味わいで、微かながらよく溶け込んだ果実感、火打ち石のようなニュアンスが表れる、複雑なワイン。
イナマの「ソアヴェ・クラッシコ」は畑や醸造の違いはあっても、いずれも繊細さと力強さ、フレッシュさ、そして落ち着いたまとまりが感じられる。「ほかの造り手にはないワインを追求してきた」というイナマの個性だ。
ほかにないワイン造りを追求
イナマは、アレッシオ氏の祖父ジュゼッペ・イナマ氏が創設したワイナリーだ。ジュゼッペ氏は「アンセルミ」のディレクターとして35年あまり活躍し、苦労の末念願の畑を手に入れた。
ソアヴェの需要が増えた1960年代、産地では平地まで畑を広げていたが、ジュゼッペ氏は高品質なワインを目指し、丘陵地帯の「クラッシコ」エリアの畑にこだわった。特に注目していたのが「フォスカリーノ」だった。
ジュゼッペ氏の息子ステファノ氏は「他社とは違う、力強くリッチな味わいのソアヴェ」を目指し、世界に認められるソアヴェを成功させた。
そしてステファノ氏の息子たちが受け継いだ今、目指すのは「エレガントなワイン」だと言う。次男のアレッシオ氏は世界を飛び回る輸出ディレクター、長男のマッテオ氏はジェネラルマネジャー、三男のルカ氏は醸造家として活躍している。
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赤ワインもエレガント
赤ワインも白ワインと同じく、エレガントで個性のある味わいが広がる。『オラトリオ・ディ・サンロレンツォ 2018年』はストラクチャーがあり、深みを感じるが、繊細で美しいバランスを持つ。04年から醸造しているワインで、栽培が難しいカルメネーレ100パーセント。
「17年からボルドーのステファン・ドゥルノンクール氏をコンサルタントに迎え、よりテロワールの表現を強化しています」
3世代目のアレッシオ氏兄弟はこの10年間で、さまざまな取り組みや改良を行ってきた。
「父から受け継いだ畑は、私たちが次世代につなぐ」と2009年から農薬を使わず、オーガニック栽培や(*)バイオダイナミックを取り入れている。またマイクロパーセル(小型区画)での管理を行い、単一畑、単一区画のワインにも挑戦している。
「これで完成、ということはないのです。ずっと改革を続けて進化するのがイナマなのです」とアレッシオ氏は自信に満ちた表情で語った。
*オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)が提唱した有機栽培農法。太陰暦に従い、宇宙のリズム、天体の運行に合わせて農作業を行う
問い合わせ先:パシフィック洋行㈱ TEL.03-5542-8034