迷惑な客は、少なからずどこのお店にもいるのではないでしょうか。クレーマーや、やたらと値切ったり返品を繰り返したり……。
最近では「お客様は神様ではない」という風潮が高まり、対等な立場という認識も広まりつつあります。今回は、一筋縄ではいかない困った老人客のエピソードを取材してきました。あなたの職場にもこんな客はいませんか?
◆郊外にオープンした家電量販店
日本全国津々浦々、名だたる家電量販店は地方に積極的な店舗展開を行っています。一時期に比べ、その勢いは落ち着きましたが、今でも田園風景のど真ん中に都心では考えられないようなスケールの大きなお店が君臨しています。
「どちらかというと、年配層の客が多いですね。私の見る限り、比較的金銭面に余裕があるためか、テレビやエアコンなどの高額商品がよく売れます。若年層に負けないくらいの商品知識もあり、時々われわれも知らない情報を持っていたりして、とても大切な顧客層ですね」
そう語るのは、とある郊外型家電量販店で店長を務める長澤さん(仮名・42歳)です。以前の店舗は都内だったためか、のどかな街の店舗に集う年配の客層にどこか癒されるそうです。
◆いつも開店と同時にやってくる老人
そんな長澤さんの店舗へ、いつも決まって開店と同時に訪れる老人男性客がいるそうです。その老人はオープン時にテレビや冷蔵庫など、家電一式を購入した太客でもあります。
「年齢は70歳後半でしょうか。ちょうど私の父親くらいだと思います。でも、父親と比べると見た目も若いし、商品のこともよく調べている方なんです。あまり詳しくは知らないのですが、奥さまが随分前に亡くなられていて、お店の近所の大きな家に1人でお住まいなのだとか」
その老人は、来店するといつもお店を一回りし、各売り場のスタッフに軽く会釈をし、一言二言会話をしていくといいます。ただ、土日などの忙しい日は老人の相手をする余裕がなく、老人がやってくるとバックヤードに入ってしまうスタッフもいるようです。
◆ターゲットにされた新人女子社員
オープン時に豪快な買い物を行ったその老人ですが、その後は電球や延長ケーブルなどの小物商品しか買わなくなったせいか、老人の接客から遠のくスタッフが増え始めました。
そんな中、新人の女性スタッフが餌食になります。
「4月に入社した新人のSさんという女性スタッフがいるのですが、どうやら老人の専属スタッフになっています。それもそのはず、老人は久々にその女性スタッフから洗濯機を購入しているのです。Sさんも初めての販売実績がその老人だったので、つい過剰な接客をしているようなんです」
少し困った様子で語った店長の長澤さん。頭ごなしに老人への接客に関して口を出すことには慎重になっているようです。
◆来店しなくなった“迷惑な老人”
ところが、ある日を境に老人が来店しなくなったそうです。心配になった長澤さんはSさんに理由を尋ねると、想定外の返事があったといいます。
「Sさんも、その老人に付きまとわれることがリスクだと気づき始めたらしいのですが、彼女がとった行動が私の想像を超えていて正直驚きました。なんと、彼女はその老人の自宅へ出向き、正直な気持ちを伝えたそうなんです。すると、老人は心の内を正直に話し始め、あることに同意したそうです」
その「あること」とは、老人の近くにあるデイサービスセンターに通うことだったようです。Sさんが胸の内を赤裸々に話した時、その老人は丁寧に謝罪し、妻なき後の寂しさに耐えきれずお店に訪れていたとのこと。親身になってくれたSさんのすすめを素直に受け入れ、その矛先がデイサービスに向けられたそうです。
「老人には少しかわいそうなことをした感がありますが、これでSさんも有意義な仕事ができるようになり、最近では老人にすすめられたデイサービスの利用者からの注文も入るようになりました」
今回のことがきっかけとなり、デイサービスセンターへの出張販売が実現し、初代の担当はSさんが担うことになったそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
―[カスハラ現場の苦悩]―
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営