“ニュース映像”を勝手に編集・改変「クルド人差別」煽る動画をX上に投稿 著作権侵害や名誉毀損は成立するか?

8月25日、X(旧Twitter)上のあるアカウントが、テレビ朝日が放送した在日クルド人関連のニュース映像のうち、クルド人側のコメント部分などを削除した動画を投稿。「クルド人差別を煽ることを目的にしている」などと批判され、同月27日に削除された。

ニュース映像を編集し、在日クルド人に対する「懸念」を煽る

当該の動画は、昨年12月に情報番組で放送されインターネット上でも配信されていたニュース映像をベースとしながら、一部を編集したもの。

投稿された動画には、画面の左上に「ANN NEWS」、右上に「波紋 川口のクルド団体『テロ支援』 トルコ政府が資産凍結決定」などのテロップが表示されていた。

報道によると、もともとの約4分30秒のニュース映像が1分12秒に短縮編集されており、テロップや音声の追加といった改変は行われていないとみられている。

編集された動画では、埼玉県川口市に多くのクルド人が住んでいる事実を紹介する場面や、「川口市がテロ支援しているのでは?」「トルコ政府がテロ組織支援者として認定しているのに、日本政府は何も対応しないのか?」などSNS上の声を取り上げる場面、川口市役所による「テロ関連の話には市として対応できない」とのコメント、トルコ大使館による「PKK(武装組織の『クルディスタン労働者党』)の関係者も日本に滞在しており、日本当局と連携を取っている」とのコメントが含まれていた。

一方で、動画から削除されていた部分では、トルコ政府から「テロ組織支援者」として認定された川口市のクルド人団体が、地元の自治体や警察と協力しながら清掃活動などの地域貢献をしている事実が紹介されていた。また、団体幹部が「テロ支援は一切ない」と説明している内容も削除されていた。

つまり、もともとの映像では、前半で「クルド人とテロ組織が結びついているのではないか」との「懸念」を紹介しつつ、後半でその懸念を否定する構成になっていた。一方、Xに投稿された動画は後半が削除されていることで、「懸念」が事実であるかのようにミスリードする内容になっている。

近年では在日クルド人に対するネット上の差別が深刻に

近年、川口市や、同じく埼玉県の蕨(わらび)市に住む在日クルド人に対する差別的な言説がインターネットを中心に拡散しており、社会問題になっている。また、JR川口駅やJR蕨駅周辺では、クルド人の排斥を主張する「ヘイトデモ」と対抗する「カウンターデモ」が定期的に行われている。

3月には、在日クルド人を中心とする14名(うち法人が2社)がジャーナリストのSNS投稿によって名誉毀損・信用毀損を受けたとして、損害賠償を請求する訴訟を提起している。

9月下旬には「川口市のダイソー系列のスーパーでクルド人の子どもが万引きしているのをよく見かける」との情報がX上で拡散。27日にジャーナリストの安田浩一氏が本社に取材して「万引きの事実は確認できない」との回答を得たが、同様のデマや臆測はこれまでにも数多く投稿・拡散されてきた。

今回の動画も、在日クルド人とテロ組織の結びつきという「懸念」が事実であるかのように編集していることから、ネット上における一連の「在日クルド人差別」に連なるものとして批判を浴びた。

一方、テレビで放送されたニュース映像を無断で編集・転載する行為そのものに、動画の内容や意図とは別に法律的な問題が含まれているのではないだろうか。著作権に詳しい、中野雄高弁護士に聞いた。

無断使用は「著作権」、改変は「著作者人格権」に違反

まず、ニュース映像は「著作物」であり著作権法の対象となるため、本件は著作権侵害にあたる、と中野弁護士は述べる。

「元の著作物を全く改変することをしていなくても、許諾なく無断で使用することは、当然に著作権の侵害になります。

著作権には『私的使用目的の複製』や『正当な範囲内での引用』など、いくつかの権利制限規定が設けられていますが、問題の投稿はそれらにあたりません。

したがって、投稿者はテレビ朝日の著作権を侵害したといえるでしょう」(中野弁護士)

さらに、投稿者は動画の後半を切り取り前半だけを投稿するという「改変」も行っている。著作物を無断で改変する行為は、「著作者人格権」の一種である「同一性保持権」の侵害だ。

著作権・著作者人格権の侵害は、民事的な損害賠償や差し止めの対象となりえる。また、著作権法には刑事罰も規定されているため、刑事罰の対象になる可能性もある。

名誉毀損は「特定の人・団体」を対象にしている場合に成立

前記した通り、今回の投稿は単に動画を短くしただけでなく、映像の趣旨を変えてクルド人に対する偏見や差別を煽ることを狙ったと批判されている。

一般的に、このような偏見や差別を煽る言説・表現は「ヘイトスピーチ」とされる。また、在日クルド人とテロ組織が結びついているかのように思わせる表現は、在日クルド人集団に対する「名誉毀損」であるとも考えられる。

では、著作権侵害ではなくヘイトスピーチや名誉毀損の観点から、今回の投稿が処罰の対象となる可能性はあるのだろうか。

現在、ヘイトスピーチを直接規制する法律はない。しかし、大阪市や川崎市、相模原市など一部の自治体はヘイトスピーチを規制する条例を制定している。

「今回の投稿も、各自治体の条例における『ヘイトスピーチ』に該当する場合には、その規制対象になります」(中野弁護士)

また、問題の動画が特定の人・団体の社会的評価を違法に低下させるものである場合には、名誉毀損罪が成立する。ただし、動画によって社会的評価が低下させられるのが「在日クルド人」という抽象的な集団である場合には、名誉毀損罪の成立は難しいという。

「同じく、名誉毀損に関する損害賠償などを民事訴訟で請求する場合にも、動画が特定の人・団体を対象にしているといえるかどうかが争点になります。

いずれにせよ、こういう投稿をしてはいけないのは、当然のことです。様々な規制の対象になりえると理解しておくべきだと思います」(中野弁護士)