飲み会の帰り29歳女とタクシーに乗ったら、想定外の展開に。深夜1時に2人が向かった所は…

◆前回までのあらすじ

アパレル関連の会社を経営する翔馬(32)は、本命の彼女を作りたいという思いから、飲食店オーナー主催の食事会に参加する。そこで出会った3人の女性、香澄(31)、ミナ(29)、玲(29)。偶然にも香澄とデートした日に、ミナと玲にも会うことになり…。

▶前回:「まだ、会って2回目なのに…」29歳女の家に呼ばれた男が、お願いされた意外なこと

Vol.5 東大卒のお嬢様の大胆な行動



「翔馬くん、あ~やっと来た。遅い〜」

玲が不機嫌な顔でこっちを見てくる。鳥居坂下にある居酒屋に着いたのは、23時。

週末の港区、夜はこれからという感じなのだろうが、俺はそこそこ疲れている。

なぜなら、六本木で香澄とジビエフレンチデートしたあと、偶然ミナに会い、余分に買いすぎたというプロテインを南麻布にある彼女のマンションで受け取り、その後、玲に呼び出され、歩いてここに来たからだ。

「ごめんごめん!LINE見てなくて」

俺は、形だけ謝罪をする。

“遅い”ではなく、“来てくれたの?ありがとう”とでも言ってくれたら疲れも吹っ飛ぶのに、ちょっと残念な気持ちになる。

もちろん、そんなことは彼女には言わない。

彼女はすでに酔っていて、まともに話を聞いてくれそうになかったから。

同じく玲に呼び出され、先に一緒に飲んでいた元太の顔を見ると、口パクで「悪りぃ」と言っている。

それにうなずいて応えるが、元太が謝るのも違う。

ここに来たのは、俺がそうしようと思ったからで、あの食事会で第一印象では、香澄でもミナでもなく、玲のことが良いと思ったのは事実だから。

― それにしても、まさか1日で3人に会うことになるなんて…。

有り難いことではあるのだが、味の濃い料理を食べ続けたような胃もたれ感もある。だからだろうか、元太に注いでもらった日本酒が全然入っていかない。

「玲ちゃん、何か食べたほうがいいんじゃない?その感じだと、お酒しか飲んでないよね」

酒のアテが欲しいが、ひとりでは食べきれない気がするので、優しさを見せるフリをして玲にメニューを渡した。

「やだ…どうしてわかるの?」

「だって、この前より酔ってるじゃん。玲ちゃんお酒強いのに、わざとそうしてる気がして」

玲が俺をじっと見るので、思わず目を逸らした。照れとか緊張ではなく、なんだか怖かったからだ。

「じゃあ、食べる。貝以外ならなんでもいいから、翔馬くん選んで」

「オッケー」

俺は、女王の命令どおり、貝なしの刺身の造りと、あん肝ポン酢、それから腹にたまりそうなカニの花シュウマイを注文した。

「ところで、君たち何時から飲んでるの?」

「何時だっけ…ん〜20時?いや、21時くらいかな」

「それならまだ2時間だろ?結構酔ってるよな。ハイスペースすぎないか?」

元太の肩に手をやると、不気味に笑い出した。

「はっはっは!はぁ〜酔ってるよ。ていうか、飲まされてるんだよ!玲たんが飲む度に乾杯させられて、それを一気しなきゃ怒られんの。こえーよ」

元太が嘆くが、玲は気にする様子もなく黙々とシュウマイを食べている。

文句を垂れながらも、どことなく元太が嬉しそうなのは、ドMだからなのだろう。

「あとね、この子見た目によらず“拗らせ女子”よ。これまで男運がなかったのか、それとも男を見る目がないのか…男心をまるでわかってないんだよな〜」

― おいおい。さすがに玲がキレるんじゃ…。

そう思ったが、玲の表情はさっきから変わらない。



いつでもどこでも動じず遠慮せず、空気をあえて読まず常にマイペース。玲みたいなタイプは、青学時代、内部進学の同級生にもいた。

いわゆるお嬢様、温室育ち、箱入り娘。

彼女たちは案外庶民的な居酒屋も好きで、ここぞとばかりにたらふくお酒を飲んだりする。

東大卒で大手商社勤務の玲も、きっと有名私立出身の育ちがよいお嬢様なのだろう。

そして、日頃のストレスをお酒を飲むことで晴らしているのかもしれない。

ただ、その相手が元太なのが問題だ。彼は頭の回転が速い方ではないし、気を使える方でもないから。

「玲ちゃんさ、こんなに美人なのに、性格がサバサバしすぎてるんだと思うんだよね。かわいげがないの。それなのに、付き合うと重い。それって…最悪よ。よくない方のギャップ」

― おいおいおい。

元太も相当飲んでいるのだろう。的を射ているが、やはり気を使えていない。

なんてフォローしようかと考えていると、玲が泣き出してしまった。

「そ、そんなの…私が一番わかってるよ」

「玲ちゃん、大丈夫だよ!なんの話かよくわかってないけど、過去の男性のことかな?その人にとって玲ちゃんが重いと感じただけで、その重さが心地良いって男性もたくさんいるから」

俺がおしぼりを渡しながら早口で慰めると、玲は泣き止んでくれた。

「本当に?」

「うん、いるいる。ちなみに元太は、彼女との連絡はチャット並み。毎日でも会いたいタイプ!だよな?」

「お、おう、全然いい!過度のメンヘラはムリだけど、毎日会いたいと言われるのは可愛い。むしろ嬉しい」

さすがに元太も慌てたのか、必死でフォローに入る。

― これなら、香澄と2軒目に行った方がマシだったんじゃ…。

その後も玲が注文した日本酒を3人で4合ほど飲み、25時近くにようやく店を出た。

「よし!元太、もう一軒行くか」

玲は泣いてスッキリしたのか、元気になって元太を誘っている。

「行かない行かない!俺は帰る」

「え〜〜飲もうヨォ」

玲は、いつのまにか元太を呼び捨てにしている。今日一日でだいぶ仲良くなったようだ。

― なんだか姉弟みたいだけど、気が合うんだろうなぁ〜。

ホッコリとした気持ちでふたりのやり取りを見ていたのだが、玲が想定外なことを言い出した。

「じゃあいいよ。私は翔馬くんと帰るから!元太バイバイ〜!」

そして、俺は玲に半ば無理矢理タクシーに押し込まれたのだ。

― なんちゅう展開なんだ。

彼女が頑なに家の場所を教えないので、とりあえず青山方面へ向かうことにした。

― 玲をどうしよう…。

考えなければいけないのに、疲れているのと過度のアルコールのせいで頭が働かず、瞼も閉じていく。

「…まくん、しょうまくん。起きて」

俺は玲の声で我に返った。一瞬目を閉じただけだと思っていたのに、実際には何分も経過していたようだ。

「よかった、起きた。ほら、着いたよ〜」

「えっ?ここは…」

ミナからもらったプロテインの紙袋を抱えながら、俺は頭をフル回転させた。運転手にマンションの住所を伝えた記憶がないからだ。

「元太と飲んでるとき、翔馬くんがどこに住んでるか、聞いちゃったんだよね〜」

状況が把握できないまま、俺は玲に手を引かれ自宅があるマンションの前で降りた。

「眠いの、翔馬くんの家で寝る!」

「……玲ちゃん、帰った方がいいよ。俺も男だよ?」

「わかってるよ。でもお願い。今日はひとりで居たくない」

マンションの前で押し問答し続けるわけにもいかず、俺は玲を部屋に招き入れた。

香澄とデートして、ミナにも偶然会い、そして今、玲と一緒にいる。

― 俺、チャラすぎる。

決してそんなつもりはないのだが、行動だけみるととてつもなくヤバいやつだ。これは何としても理性を保ち、眠るだけにしなければならない。

俺は、玲に部屋着とペットボトルの水を渡して「おやすみ」と寝室に押し込んだ。

― 眠い…ソファで横になろう…。

「待って。行かないで」

面倒なことになりたくない、その一心で俺は邪念を振り払いベッドルームを出ようとしたのに、玲が後ろから抱きついてきた。

「玲ちゃん…」

俺は、彼女の手を優しく掴んだ。

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泥酔した玲と翔馬は朝を迎え…