ほろ苦い下積み時代の思い出とともに。

鉛筆で点描画を描いていた10年ほど前、まだ絵だけで食べていくことが難しかったのですが、個展で作品が売れた記念に、ずっと憧れていた〈マイキータ〉の眼鏡を買いました。はめ込み式のジョイントや、薄く軽量なフレームデザインが当時は珍しく、モノとして変わっている。しかも、既存のルールにとらわれず価値観を再構築させる考えに感銘を受けたデザイナー、マルタン・マルジェラとのコラボレーションで、唯一無二。当時はあまり似合わなかったのですが、かけ続けるうちにだんだんと顔に馴染むように。店舗の近くにアトリエがあるので、不調を感じたらすぐメンテナンスに出しています。眼鏡は他にも所有していますが、すべて〈マイキータ〉のもの。なかでもこのモデルは、縁起を担ぐため、大事な展示のオープニングなどでは今でも必ずかけています。

TIDE タイドアーティスト

2009年アーティスト活動を本格的に開始。水彩やアクリル絵の具などを使用した技法を模索し、作品を生み出す。国内外で精力的に個展を行う。

illustration : Megumi Sasaki text : Shoko Matsumoto

&Premium No. 131 LONG-TIME STAPLES / 使い続けたくなる、愛しいもの。

ファッションやライフスタイルにまつわるもの選びにおいて、時間をかけて長く付き合っていく姿勢が、これまで以上に必要とされているように思います。でも、ただ漫然と「長く使い続ける」ことだけが重要ではなく、それを使ったり、身に着けたときに、出合った頃と変わらぬ「愛おしさが続いている」ことも、忘れてはならない大切な要素なのではと考えます。初めて手にしたときの高揚感、作り手のこだわりに惚れ惚れとしたこと、使い続ける日々の中で紡がれた大切な思い出……。そういったさまざまな「記憶」が、人とものを、長きにわたって、幸せなかたちで繫ぎ合わせていくのです。〈ミナ ペルホネン〉のデザイナー・皆川明さんをはじめ、たくさんの方々に「使い続けたくなる、愛しいもの」にまつわるエピソードについて聞いてみました。

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