「将来の介護が不安」87歳の母親殺害、60代息子に「懲役3年」 認知症状なく“良好な親子関係”だったが…思い詰めた理由

東京都豊島区の自宅アパートで昨年9月、同居していた母親(当時87)の首を絞めて殺害した罪に問われた澁川勝敏被告(61)に11日、東京地裁(福家康史裁判長)で懲役3年の実刑判決が言い渡された。

事実関係に争いはなく、2日から裁判員裁判で審理が進められており、4日の論告で検察側は「自己中心的な犯行だ」などとして懲役6年を求刑。一方の弁護側は、被告人が事件当時、心神耗弱(こうじゃく)状態にあったことなどから執行猶予付きの判決を求めていた。

母親との2人暮らし「ホッとするものだった」

事件当時、被告人と母親は2人暮らし。母親は高齢ながら認知症の症状はなく、食事や入浴などの日常生活も問題なくこなし、メニエール病の疑いはあったが通院も一人でできていた。

特段会話が多かったわけではないが、一緒に食事をとり、テレビを見るなど親子関係は良好だったという。また、食事の用意は母親、洗濯は被告人、掃除は交代でするなど、家事は分担していたそうだ。

お互いのことは「お母さん」「勝敏」と呼び合い、被告人は母親との2人暮らしについて「ホッとするものだった」(初公判より)と振り返っている。

「テレビがきっかけ」将来に不安募らせ犯行に

一見すると穏やかな暮らしの中、被告人が犯行を起こすきっかけとなったのは、「介護に関するテレビ番組」だった。

これを視聴した被告人は、将来的に母親の介護が必要になっても「自分にはできない」と不安を募らせていったという。それから約半年後、被告人は精神的な落ち込みによって、それまで当たり前にできていた家事が手につかなくなった。不眠状態も続いたことから、事件の2週間ほど前に精神科クリニックを受診すると「中等度のうつ病」と診断された。

加えて、被告人は逮捕後に受けた精神鑑定で「境界知能」だったことが判明している。境界知能の人は、IQ(知能指数)が平均的な値と知的障害の間にありながら、障害とは診断されないために可視化されづらい。日本人の7人に1人が該当するとも言われているが、明確な公的支援がなく、つらい思いをしている人も少なくない状況だ。

2日の初公判では、被告人が高校中退後のほとんどの時間を家で引きこもるように生活していたことや、実際に介護が必要になった場合にどうすればよいのか、母親本人や行政機関などに相談することなく一人で思い詰めていったことも明かされた。

裁判長「お母さんのことを思いながら、生涯かけて罪を償って」

判決で裁判長は「親の介護に対する不安は誰もが持ち得るものだが、被告人は境界知能、中等度のうつ病によって心神耗弱状態にあり、犯行の意思決定に対する非難の程度(※)は相当程度低下する」と、検察側の求刑よりも刑期を短くした理由を説明。

※ 犯罪行為に対する法的非難の程度。量刑を決める際の要素となる

一方で、「同種事件に比べて軽い事案ではなく、刑の執行を猶予することはできない」として、実刑判決を言い渡したと明かした。

さらに裁判長は被告人に対して「まずは服役によって罪と向き合い、早期の社会復帰をすることがあなた自身の更生につながる」と語りかけ、以下のように続けた。

「やったことの重さを刑務所で見つめたら、重要なのはその後の長い人生。無理はいけないが、引きこもるのではなく、支援してくれるまわりの人から助けてもらって社会の中で生活し、お母さんのことを思いながら、生涯かけて罪を償ってほしい」

裁判長の言葉を受けて、被告人は小さな声で「はい」と答えた。