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かつては定時運行が当たり前だったドイツ鉄道(DB)だが、近年列車の遅れが頻繁に生じ、サービスの低下が問題になっている。政府は投資を大幅に増やして2030年までに鉄道網の大々的な点検修理を行うとしているが、それだけでは抜本的な解決にはならないという指摘もある。
◆遅延多発 観光客も被害に
米フォーチュン誌は、時間に正確であることはドイツ人であることの代名詞だったと述べる。しかし今年の夏にドイツの10都市で開催されたサッカーの欧州選手権の期間中、列車の故障やホームの混雑は国際的なニュースとなった。効率の良さ、定時運行、最高品質のインフラで定評のあるドイツは大恥をかいたとドイチェ・ヴェレ(DW)は述べている。
英インデペンデント紙によれば、サッカーの欧州選手権以外でも、この夏の鉄道利用者はさまざまな問題に直面しており、列車の遅れによる乗り継ぎの遅れ、突然の運休やルート変更、不十分または不明瞭な情報提供などが報告されている。状況があまりにもひどいため、欧州の鉄道情報サイトの運営者は、ドイツ国内で鉄道旅行をする際は、乗り換え時間を45分はみるようにとアドバイスしているほどだ。
実は鉄道の混乱はずっと前から始まっていた。DBの列車の遅延は確実に増加してきており、昨年は長距離列車で定刻に目的地に到着した列車は3分の2を下回り(64%)、過去最低を記録している。ちなみにドイツでは現在、列車の遅延が6分未満であれば定時とみなされている。
◆鉄道インフラ放置の結果か? 政府は軌道修正
DWによれば、鉄道サービスが劣化したのは、数十年にわたる怠慢と慢性的な投資不足が原因だという。鉄道の改善を求める非営利団体、プロ・レイル・アライアンスのサブリナ・ウェンドリン氏は、旅客輸送と鉄道貨物の需要が伸びているにもかかわらず、あまりにも長い間鉄道インフラを放置してきたことが問題だと指摘した。ベルリン社会科学センターのアンドレアス・クニー氏は、鉄道よりも自動車と道路インフラを優先する政策が取られてきたことも原因の一つとして、これまでの政治の責任を指摘している。
DBも、過去において鉄道網、サービス施設、駅に投入される資金は、交通量の増加に伴い、高いレベルとクオリティを達成するには不十分だったとしている(インデペンデント紙)。ドイツの現連立政権は、2030年までに数十億ユーロを投入して、鉄道網を大改造する計画を発表している。フォーチュン誌は、今後はDBが抱えるいくつかの問題への対処が進むだろうとしている。
◆お金だけでは解決できない、長期的視点で改革を
DWによると、交通専門家のフィリップ・コソック氏は、現政権は前政権よりも鉄道網に投資はしているが、全体の近代化や拡張に必要なほどの投資はしていないと批判的だ。また、DBは民営化されてはいるものの、国の所有となっており、公営と民営の二重構造を排除して、より統合された鉄道会社にすべきだとしている。
プロ・レイル・アライアンスのウェンドリン氏は、長期的な計画と確実性も必要だと述べる。鉄道インフラの将来性を高めるには、短距離走ではなくマラソンで挑むべきだと指摘し、政府の強いコミットメントと長年にわたる資金調達構造がなければ、改革は達成できないとしている。(同)