関東で相次いでいる強盗事件を巡り、警察庁は8日、警視庁など発生地域の県警捜査幹部を集めた緊急捜査会議を開き、事件の全容解明と指示役の検挙に向けた捜査方針を示した。
一連の事件は今年8月以降、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県で少なくとも7件発生。いずれも実行役がSNSの闇バイト募集で集められているなど手口が似ていることから、背景に匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の存在があるとみているという。
特殊詐欺や強盗をする上で重要な役割を果たすツールが「闇名簿」だ。この名簿にはさまざまな種類があり、ランク付けされ売買されている。今回の連続強盗事件でも、2022~23年に全国各地で発生した広域連続強盗事件(以下、ルフィ事件)でも、闇名簿のターゲットリストに基づいて犯行がなされたのではないかと言われている。
「闇名簿」売買の実態
企業人からは、リスクヘッジ(リスクへの備え)という言葉を聞くことが多くなった。しかし、実際のところ、リスクヘッジがどこまでできているか、リスクに対して実効的な対策を講じているかという点には一抹の不安を感じ得ない。昨年、NTT西日本の子会社で、元派遣社員がシステムの管理者アカウントを悪用し900万件以上の個人情報を持ち出した事件は記憶に新しい。こうした個人情報の流出が、闇名簿として集約・転売され、犯罪に利用される可能性がある。
以下、筆者が、闇名簿などの流通に詳しい元裏社会の人間から取材した闇名簿売買の実態を紹介する。なお、この証言は、拙著『闇バイト 凶悪化する若者のリアル』(祥伝社新書)を執筆した際に聴取した内容を、一部加筆して引用している。
ルフィ事件の被害者は闇名簿からチョイスされたのか。
ルフィ事件のターゲットは、名簿からチョイスしたと思います。ただ、この名簿の質は分からないし、入手先も分からない。もしかしたら、ダークウエブで購入(後述)したものかもしれない。
闇名簿はピンキリで、サラピン(一度も犯罪に使われていない)は値が張ります。詳細な名簿なら1件あたり1万円する場合もある。一方、使い古された名簿(出がらし)は、1件300円、500円と安くなる。おそらくルフィ事件で使われた名簿は、カネを持っている、入ったらカネがありそうな家の名簿を使ったと思います。
(裏社会の)名簿屋は、情報屋から情報を買います。情報屋はカタギから情報を買うんです。デイサービスや家政婦派遣の情報、学校職員の家族名簿、市議会議員や村議会議員の名簿と、いろいろあります。
闇名簿売買に相場はあるのか。
名簿屋は、情報屋から名簿を買うとき、安くたたいてナンボ。だから、マスコミさんは相場を知りたがりますが、それは企業秘密です。相場を作らせないためですね。あと、出がらしの名簿を、サラピンと偽って高く売る場合もある。
一方で、名簿屋や特殊詐欺の実行犯が、直接被害者に電話を掛けて(有名企業アンケート、テレビ番組の取材などと偽り)情報収集するケースもあります。
一般人が個人情報をカネにしているのか。
(名簿の流出は)カタギ個人のケースもありますが、会社ぐるみの場合もあります。たとえば、正規の合法な名簿屋がある。これは、セールスマンのための名簿を扱う会社です。学習教材会社なら、ファミリー名簿を売るんです。しかし、こうしたカタギの名簿屋さんも、名簿のオイシサを知ったら、カネのために悪い方に流れてゆくケースもあります。
あるいは、ブランドや高級車の購入者名簿が欲しければ、従業員に接触して、カネをチラつかせてデータのコピーを取らせるとか、さまざまな方法があります。
あと、カタギさんに「家にカネありそうなところ知らないか。そこに本当にカネがあれば、(もうけの)10%やるから教えてくれない」って言うと、必死で調べてきますよ。こうした生の情報はありがたい。自分がタタキの実行犯(強盗犯)にならなかったとしても、情報自体が売れるんですから。
大体、名簿がカネになるようになったのは、特殊詐欺が始まってからじゃないですか。昔は、名簿なんか捨てていました。パソコンの中の名簿なんか普通に放置されていました。
しかし、これがカネになる現在ですと、わざわざ名簿を盗みに入る者も出てきた。名簿は、貴金属や現金と違って、セキュリティーの甘いところに保管していますから、盗みやすい。さらに、盗まれても、被害者は(個人情報取り扱いの杜撰〈ずさん〉さを)お客に責められるから、被害届を出さないんじゃないですか。
ほかにも闇名簿の入手ルートはあるか。
2013年にアメリカのFBIにつぶされたシルクロードというウエブ闇市がありました 。いわゆるダークウエブの草分け的存在です。カネの出先が分からないビットコインは、こういうところで使われる。裏のメルカリみたいなものです。
当時は、英語版しかなかったのですが、現在は日本語版のサイトも存在します。シルクロードは薬物専門でしたが、昨今のダークウエブは、名簿、銃器、シャブ、殺人請負、児童ポルノ、キャッシュカードから臓器まで、何でも売られています。もちろん、闇の名簿なども手に入ります。
もっとも、違法サイトですから、商品が届かなくても被害届は出ないので、詐欺も横行しています。日本は税関が厳しいので銃などは注文できないから、大麻の種子などが人気のようです。
だから、各詐欺や強盗事件で使用された名簿が、どこで入手されたかということは、首謀者らが当局によって尋問されないと分かりません。要は、名簿の入手先は複数存在するということです。
“ルフィ事件”首謀者を知る人物の証言
筆者が取材した元裏社会の人間の話を裏付けるような証言がある。
“ルフィ事件”の首謀者とされる渡邉優樹被告らとフィリピンの収容施設で生活していた人物は、闇名簿について「役所から情報を取るのが一番、大きい。税金いくら納めてるとか。(Q.市役所に協力者がいる)そう。この時代にフロッピーですよ」(テレ朝news 2023年3月15日) と、納税情報などを含む個人情報が、役所から渡邉被告らの元に流出していたことを明かしている。
さらに同報道では、捜査関係者の証言として「自治体からの漏えい、情報の販売は絶対ある。言い切れるレベルで自信ある。場所によっては、セキュリティーチェック体制も緩い。ザルなところなんてたくさんあるよ」との言葉も紹介されている。
X(旧Twitter)でも「情報買います」との投稿が散見される。これらは「#名簿」「#情報」などと引っかかるようになっている。実際、この記事を書いている2024年10月上旬に「#名簿」で検索したところ、複数の投稿がヒットした(写真)。
「オートロックマンション」の盲点
昨年、筆者が保護司として担当する地域(福岡市中央区)では、「マンションの郵便受けが荒らされている」という苦情が上がっていると聞いた。
オートロックの高級マンションでも、郵便受けは無防備であることを忘れてはならない。個人の住所や家族構成がカネになる時代だ。郵便物といえども個人情報が記載されているので、名簿の作成が可能となり得る。郵便は毎日回収を心掛けていただきたい。自身と家族を守るためにも、日常のリスクヘッジに、個々人が留意すべきである。