日本経済において大きな影響を及ぼす企業は、一国のGDPに匹敵する大きな売上高を誇っています。本記事では、帝国データバンク情報統括部の『帝国データバンクの経済に強くなる「数字」の読み方』(三笠書房)より一部を抜粋、再編集して、具体的な数字を見ながら大企業の売上や社会において果たす役割について解説していきます。

日本で一番の企業は、あの国のGDPに匹敵!?

今回は、日本の経済において巨大な存在である企業と、各国の経済規模(名目国内総生産〈GDP〉)について探ってみましょう。特に、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の売上高と、名目GDPとの比較に注目してみます。

日本で一番大きな売上高を誇る企業といえば、トヨタ自動車です。トヨタは自動車メーカーとして、世界中で高い評価を受け、その売上高はなんと37兆円(2022年度、連結、国際会計基準)にも達します。これは一体どれだけの金額なのでしょうか。

[図表]トヨタの連結売上高と海外の名目GDP 比較

トヨタの売上高を理解するために、名目GDPと比較してみましょう。2022年度時点の日本の名目GDPは約566兆円で、アメリカと中国に次いで世界第3位の大きさです。そのような日本経済に対して、トヨタの連結売上高は対名目GDP比で6.5%に相当する規模になっています。

トヨタの連結売上高を海外の名目GDPと比較すると、世界53位のデンマークに次ぎハンガリーよりも大きな経済規模です。あるいは、トヨタ自動車単独の売上高は約14兆円ですが、この売上高でもセルビアとクロアチアの間に挟まれる規模となっています。

一企業の売上高がこれら一国全体の経済規模に匹敵する水準とは驚くべき大きさです。これは世界有数の大企業が、どれほどの影響力をもっているかを考えさせられるのではないでしょうか。トヨタのような大企業では、多くの人が雇用され、国内外で多大な経済効果を生んでいます。

(広告の後にも続きます)

大企業が果たしている役割とは?

それでは、こうしたことは良いことなのでしょうか。企業が一国の経済水準に匹敵する規模になることは、一つの側面では経済において強力な存在であることを示しています。しかし、同時に企業と国が連携し、健全な経済を維持していくことの重要性も考えなければなりません。

このような事実は、今後、企業が社会的な責任を果たし、環境への配慮や社会の発展に寄与することがますます求められることになるでしょう。また、国家も企業と連携し、公共の利益を守り、健全な経済環境を構築していく必要があります。

例えば、SDGs(持続可能な開発目標)への積極的な取り組みもその一つでしょう。SDGsは2015年9月の国連サミットですべての加盟国により採択された持続可能なより良い社会の実現を目指す世界共通の目標です。

帝国データバンクの調査では、中小企業を含め企業の53.6%が何らかの形でSDGsに取り組んでいます。とりわけ大企業(71.6%)は7割を超え、初めて5割を超えた中小企業(50.4%)を大幅に上回る割合です。

このような世界各国で重要度を増している課題解決へ向けた取り組みに対しても、大きな社会的役割を果たしていると言えるでしょう。

大企業は、多くのリソース(資本、キャッシュ、従業員、設備など)をもっています。前述のトヨタ自動車は、グループ全体で1000万台以上を販売しており、従業員数は世界全体で37万人を超えています。資本やキャッシュは数兆円にも及びます。

このような大企業が行う企業活動や決定は、社会に大きな影響を与えることは容易に想像がつくでしょう。一方で、経済が不況になった時にも、従業員の賃金を払い続けることができたり、原材料価格が値上がりしても安定した価格で商品を提供することが、ある程度まで維持可能と考えられます。

つまり、大企業はさまざまな市場環境の急激な変化に対して、社会全体への影響を緩かんしようざい衝材として受け止める存在ともなり得るのです。また、大企業がもつ豊富なリソースを用いて、社会貢献活動を行うことが必要とされています。

今後の経済活動においては、大企業に限らず、自社としてできる範囲で、持続可能な社会を築いていくことが一段と求められていくのではないでしょうか。

帝国データバンク情報統括部