ノーベル賞の賞金「1億5700万円」…なぜ“経済学賞”だけ「課税される」のか?【税理士解説】

ノーベル賞の受賞者の発表が、スウェーデンの首都ストックホルムで現地時間の10月7日から14日まで行われている。例年、お決まりのように「日本人」が受賞するかどうかが時の話題となる。

ノーベル賞の受賞者は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5700万円)の賞金を受け取れることになっている。もし、日本人が受賞して賞金を受け取った場合、所得税等の扱いはどうなっているのか。税金に関する情報発信を精力的に行っている黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ共同代表)に聞いた。

ノーベル賞の賞金にかかる「税金」の額

そもそも、ノーベル賞の賞金を受け取った場合、所得税等の税金はどのように課税されるのだろうか。

黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ提供)

黒瀧税理士:「まず、課税対象となるかどうかは、ノーベル賞の種類によって異なります。

一般に、ノーベル賞というと『生理学・医学賞』『物理学賞』『化学賞』『文学賞』『平和賞』『経済学賞』の6種類をさします。

このうち、『生理学・医学賞』『物理学賞』『化学賞』『文学賞』『平和賞』は非課税とされています。一方で、『経済学賞』にはそのような特典が与えられていません。

つまり、『経済学賞』を受賞した場合のみ、所得税を課されることになります」

では、ノーベル経済学賞の賞金1億5700万円を受け取った場合の所得税の金額はいくらになるのか。

黒瀧税理士:「前提として、所得税の計算方法は、所得の種類によって異なります。

ノーベル経済学賞の賞金は、所得税法上、『一時所得』に該当します(所得税法34条1項)。

一時所得は『一時的なもので、対価性がない所得』をさします。ノーベル賞の賞金は受賞したときだけ受け取れるので『一時的なもの』といえます。また、特定の仕事に対する報酬等の対価ではないので『対価性がない』といえます。

一時所得の計算方法は以下の通りです。

(収入金額-収入を得るために支出した金額-50万円)×2分の1

ノーベル経済学賞の賞金を受け取るために『支出した金額』は考えられないので、賞金額の1100万スウェーデン・クローナを1億5700万円として計算すると、所得の金額は以下の通りです。

(1億5700万円−50万円)×2分の1=7825万円

所得税の額は、この金額と他の所得を合計し、それに税率をかけて計算します。なお、この金額の場合、すべての人が対象となる『基礎控除』の額は0円です。

仮に他の所得がゼロとすると、課税所得金額が7825万円の場合、最高税率は45%(控除額479万6,000円)なので、所得税の額は以下の通りです。

7825万円×45%-479万6,000円=3041万6500円

経済学賞だけが「課税対象」とされる理由

なぜ、経済学賞だけが課税対象とされているのか。黒瀧税理士は、その理由が経済学賞の成り立ちにあると指摘する。

経済学賞の選考を行うスウェーデン王立アカデミー(Pixta_author/PIXTA)

黒瀧税理士:「所得税法の規定をみると、『ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品』を非課税としています(所得税法9条13号ホ)。

ノーベル基金は、ノーベル財団が運用する基金です。ノーベル財団はノーベルの遺言によって設立された『生理学・医学賞』『物理学賞』『化学賞』『文学賞』『平和賞』を運営しています。

これに対し、『経済学賞』はスウェーデン国立銀行が創設し、1969年から授賞が始まったものです。選考は『物理学賞』『化学賞』と同じスウェーデン王立アカデミーが担当し、舞踏会や晩さん会も他の賞と同様に行われ、賞金の額もまったく同じです。

わが国でノーベル賞の賞金が非課税扱いになったきっかけは、1949年に湯川秀樹博士が『物理学賞』を受賞したことです。当時、そのような栄誉ある賞の賞金に課税すべきではないという議論が起き、急きょ、所得税法が改正されたのです。

その時点では『経済学賞』は創設されていませんでした。また、『経済学賞』が設けられてから、これまでに受賞した日本人はいません。なので、特に問題視されず、結果として非課税の特典が与えられないままになっているものと考えられます」

ノーベル賞受賞時に日本国籍だった受賞者(日本の税制の適用対象)は2023年までの合計が25名。全6賞のうち受賞者がいないのは『経済学賞』のみである。今後、果たして日本人の受賞者が現れることはあるのか。その際には、賞金を非課税扱いにすべきという議論が起きることになるのだろうか。注目される。