素人投資家が陥りやすい誤り
ここで、一見シンプルだがなかなか深い質問が登場する。いつ売るべきか。そして何に基づいてその決定を下すべきか。値上がり額? 値下がり額? それとも買うときに払った金額?
先述のとおり、この一見なんてことない質問は、素人投資家が最も陥りやすい、破滅的な誤りの核心に迫るものである。
例を挙げよう。一株当たり40ドルで1000株買うとする。数ヵ月後に株価が10ドルに下がったら、いくら損したことになるか。当然、3万ドルである。計算してみよう。初めに1000株買い、その後、それぞれの株の価値が購入時より30ドル下がった。だから、いくら損をしたかを計算するためには、買った株数に、一株当たりの損した額である30ドルを掛けるだけで、合計3万ドルと算定できる。
この計算は明らかだろう? 確かにそうかもしれないが、この数値は本当に意味があるのだろうか。本当に、損したのは3万ドルなのだろうか。証券口座の時価残高は確かに3万ドルとなる。しかし義弟の考えたとおり、まだ持ち株を売却していないのだから、実際はまだ損をしていないのではないか? つまり「紙の上で」損をしているだけではないか。
義弟のしたように、しばらく考えてみてほしい。株を本当に売るまで、価格が戻り、少なくとも幾らかのお金が戻ってくる可能性は常にある、だろう? 実際、本当に辛抱強くなれるなら、購入時の株価まで回復するのを待ってから売ることも可能だ。その場合、結果はトントンで、損失はまったくないことになる。なかなか説得力のある説だ。
それではさらに一歩話を進めよう。二年間この戦略をとり続けた株式ポートフォリオを保有していると想像してみてほしい。言い換えると、株価が下がった場合、売らないでおく。そしてフェルナンドのやり方に従って、忍耐強く保有し続け、株価が戻るのを待つ。反対に、株価が上がった場合、売ってしまう。そして再びフェルナンドのやり方に従って(投資を始めてから二週間、義弟が負けなしだった頃のように)売却して利益を確定し、別の取引を始める。もちろん、これらの利益について税金を払わなければならないが、それに文句はないだろう?
ベンジャミン・フランクリンが言ったとおり「世の中には確実なものが二つだけある。死と税金だ」。「利益を得ている限り破産することはない」という株式ブローカー御用達の言葉もあわせると、この戦略は成功が約束された、長期的に見て勝者のレシピだと思われるかもしれない。
そうなのか? もうちょっとよく考えてみよう。値上がりした株は売って利益を確定し、値下がりした株は保有し続けて損失が確定するのを回避するという投資戦略で本当にうまくいくのか? それを解明するために、先ほどの、二年間この戦略をとり続けた株式ポートフォリオがどうなったのか見てみよう。どんな株が残っているだろう? その答えは「負け犬揃い」だ。義弟のポートフォリオと同じく、全部が全部、負け犬だ。確実にそうなる。
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値下がりした株を手放さない投資戦略の欠陥
この戦略には2つの大きな欠陥がある。
1.勝手に抱いた幻想に基づいている。
2.売るべきか否かを判断する際に何よりも重要な要素である「あなたが上げ潮に乗っているのか下げ潮に乗っているのか」を考慮していない。
この戦略が基づいている幻想とは何か? ズバリ言わせてもらうと、現実を直視し状況に対処することから逃げ回る限り危険はないと思っている、頭を砂に突っ込んでいるダチョウだ。株式市場の言い回しでは「株が下落しても、売らない限りは本当に損したことにならない」という幻想だ。
わかりきったことかもしれないが、絶対に忘れないように言っておこう。「お前は、完全に、負けている」株を手放していないからといって、損していないということにはならない。実際、損したのだ。もう絶対に戻ってこない。アンコールもなしだ。
疑わしいと思うなら、投資信託会社について少し考えてみれば、納得できるはずだ。ウォール街が個人投資家に売り出す何千もの金融商品のなかで、投資信託は特に会計面で最も厳格に規制されていて、「マーク・トゥ・マーケット」と呼ばれる画一化された会計処理がすべての投資信託に法的に義務付けられている。
投資信託は「マーク・トゥ・マーケット」に基づき、取引日の締めごとに、それを構成するすべての株式のそれぞれについて、現在の株価を現在保有する株式数で掛け合わせ、その日の市場に基づく現在価値でそのポートフォリオ上の各株式が計上される。投資信託のポートフォリオすべてについてこの作業が完了すると、それらの現在価値をすべて足し合わせ、さらに手持ちの現金があればそれを加えて、当該投資信託の流動資産の総額が算定される。
投資信託の一口当たりの価値を知るには、総資産から総負債(マージン・ローン、手数料、管理費、人件費、営業費等)を差し引き、その数値を投資信託の総口数で割ると、投資信託の「基準価格(NAV)」が算定できる。これが、特定の取引日の終了時における投資信託の一口当たりの価値を表す。
何が言いたいのかというと、つまり、あの無能な米国証券取引委員会(SEC)でさえ、投資信託がNAVを計算する際に、株式を買うときに支払った価格を用いることを認めていないのだ。なぜか。明らかに的外れだからだ。その上、人の目を欺くからだ。
おわかりいただけただろうか。投資信託がポートフォリオを構成するすべての株を時価で計上しないと、まだ売却されていないだけの負け犬のみで構成された投資信託を投資家は見分けることができない。これは、あなた自身のポートフォリオでも同じだ。
値下がりした株をまだ売却していないからといって、まだ損をしていない、ということにはならない。もう損をしたのだ。そのカネはなくなった。ただし、そのカネが永遠に返ってこないか、といえば、それはまったく別の話で、保有する株を日々、時価で把握しないことのもうひとつの欠点と深く関わる。それは、売るべきか否かを決定する際に最も重要な要素――すなわち「なぜ」――を見落とすことだ。
ジョーダン・ベルフォート
投資コンサルタント