「結婚したがらない」男子校出身の東大生たち。中学受験で人気の“男女別学”に潜むリスクとは

―[貧困東大生・布施川天馬]―

 みなさんは映画『26世紀青年』をご存じでしょうか。2006年にアメリカで公開されたブラックコメディで、「頭がいい人たちが出産控えをして、頭のよくない人たちが子どもを産み続けた結果、人類全体のIQが低下した未来」を描いた作品。これはコメディですが、実際にもこの兆候は表れているように感じています。

◆「子供を欲しがらない」東大の同級生

 私の東大の同級生に少なくとも2人の「反出生主義者」がいます。「反出生主義」とは、「人間が生まれてきたことを否定し、新たに人間を産み落とすことも否定する」考え方。子どもを作らない理由は様々でしたが、そのうちの一つは「自分のような人間が子どもを作ってしまうと、いらない苦しみを与えてしまうかもしれないから」でした。

 これは非常に面白い考え方のように見えます。東京大学といえば、日本でも最高クラスの大学。ここに入学できるような優秀な頭脳を持っているのに、「自分は子どもを作るに値しない」と彼らは述べている。

 もちろん数が少ないのは承知ですが、客観的に見て十分すぎるほど優秀に見える彼らは、自らの能力越しに子孫繁栄を否定している。少なくとも、私とは真逆の考え方です。

 私は、「貧乏な境遇を子どもに味わわせないために、高給取りになりたい」と考え、それを達成するために東京大学に進学しました。私の考える「子どもを持つために最低限必要な能力」は、彼らのそれを下回る。

 逆を言えば、私よりはるかに優秀な人たちは、子どもをもつ責任を私よりもずっと重くとらえているのです。だからこそ、世間的には十分優秀な能力を持ちながら、子孫を残さない。

 ですが、これは単純な責任感の問題ではないようにも思います。反出生主義の彼らに共通するのは、「男子高出身」という点。

 中学受験の選択肢として候補に挙がりやすい灘や開成などの中高一貫男子校ですが、これらは子どもの婚姻状況に影響を与える可能性があるのではないかと私は考えています。実際に、男子校出身者は結婚に対して消極的になりやすいとする研究データが出ています。

◆男子校出身者は結婚に消極的な人が多い

 婚活支援を事業として行うパートナーエージェントがアラサー男女2115人を対象に行った調査によれば、男子校出身者の結婚に対する意欲は、共学出身の男女および女子高出身の女性より著しく低いことが明らかになっています。

 具体的には、他の属性では高くても17%程度であった「結婚したくない」と回答した比率が、男子校出身者だけ28.2%にまで達しているのです。

 これは「何とも言えない」と回答した層と合わせると過半数の50.2%に到達し、男子校出身者が著しく結婚に対してネガティブな印象を抱いていることがわかります。

 とはいえ、2020年の国税調査によれば、大卒男性の90%近くは結婚していることが明らかになっています。独身研究家コラムニストの荒川和久氏は「男性の未婚率が低い理由は、従来みられた男女間の賃金格差によるもの」と指摘しています。

 東京大学出身者は一般に高年収であることは広く知られており、本来なら東大出身男性の結婚率は著しく高く出るべきです。

◆東京大学出身者の婚姻状況


 ただし、荒川氏は続いて「男女間の賃金格差がなくなれば、稼ぐ女性は自分より稼がない男性を結婚相手とみなさなくなるだろう」とも記しています。

 東京大学大学院教育学研究科によるレポートでは、世代別に分かれた東京大学出身者の婚姻状況が調査されています。これによれば、1970年代生まれまでは男女で婚姻率に差があり、男性のほうが高くなっていますが、1981年生まれを境に逆転し、女性の婚姻率のほうが高くなりました。

 キャリアデザインの都合上、男女関係に時間を割く余裕がなくなり、結婚していないだけともとれますが、私は「女性のキャリア向上」と「男子校通いの副次効果」が相乗したのではないかと考えました。

 男子校出身の東大卒が結婚に消極的になりつつある上に、女性の賃金も上昇してきているため、同じ社会階層の女性に相手にされなくなりつつあるのではないか。

 そう考えると、冒頭紹介した僕の友人も、もしかしたら「婚姻に対するネガティブな感情」が様々な経験や知識によって味付けされ、「反出生主義」の形をとって出てきたのではないかと思えてしまいます。

◆人気の“男女別学”に潜むリスク

 昨今過熱する中学受験では、変わらず男女別学が人気です。男子校なら灘や開成、女子高なら桜蔭や女子学院中学など、御三家と呼ばれる中高一貫校はどれも男女別学。人気の理由は、東京大学をはじめとする「一流大学」への進学率が著しく高いからでしょう。

 子どものキャリア形成を案じる気持ちは多少わかります。ですが、「一流校を目指させる」理由の一つは、より安定した収入や社会的地位を得て、家庭を築く助けとしてほしいからではありませんか。

 もしそうならば、男子校に通わせることによって婚姻に消極的になるリスクも鑑みなくてはいけません。

 仮に「子どもに幸せな家庭を築いてもらって早く孫の顔が見たい」と考えて、進学実績の良い男子校に子どもを送り込んでも、その選択が一生独身を貫かせる後押しになるなら本末転倒でしょう。

 東大に行くだけなら、本人に十分な能力と努力さえ伴えば、どこからでも行けます。目先の実績につられて男女別学の学校に通わせるべきか、第一に子どもの未来を見据えて、今一度考えなおすべきではないでしょうか。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】

1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)