映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公のモデルとなったジョーダン・ベルフォート氏が語る投資術。仮に40ドルで買った株が70ドルに上がった、ないしは10ドルに下がった、とする。あなたならそれぞれどうするか? 売るべきか、売らざるべきか……。ジョーダン・ベルフォート氏の著書『ウォールストリート伝説のブローカーが弟に教えた 負けない投資術』(久保田敦子訳・KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、その明確な判断理由を解説していく。

40ドルで買った株が70ドルに…売るべき?売らざるべき?

値下がりした株をまだ売却していないからといって、まだ損をしていない、ということにはならない。もう損をしたのだ。そのカネはなくなった。

ただし、そのカネが永遠に返ってこないか、といえば、それはまったく別の話で、保有する株を日々、時価で把握しないことのもうひとつの欠点と深く関わる。それは、売るべきか否かを決定する際に最も重要な要素――すなわち「なぜ」――を見落とすことだ。つまり、なぜ株価が下がったのか、ということだ。その背景となる理由は何か。そして逆に、なぜ株価が上がったのか、その背景となる理由もだ。

例えば、あなたが40ドルで買った株が現在、市場で70ドルになっているとして、売ることが理に適っているか知りたいとする。ここでひとつ目の質問が登場する。なぜそもそもその株を40ドルで買ったのか。お金に興味がない場合は別として、その株が値上がりすると考えたからだろう? それ以外の理由などあるだろうか? 値下がりすると思って買う奴はいない。

そう。当たり前のことに思われるかもしれないが、これが最初の重要なポイントだ。株でも他のどんな資産でも、それを投資家が買う理由は、それが値上がりすると考えるからだ。

そこで、次の質問だ。なぜ、その株が値上がりすると思ったのか? 意外に思われるかもしれないが、株価は魔法や呪術のような不思議な力によって上がったり下がったりするわけではない。いくつかの明確な理由があるはずだ。ここで、それらの理由を見ていこう。

まずは、最もわかり易い理由、それは需要と供給の法則である。例えば、ある株の需要が供給を上回る――つまり、買い手のほうが売り手よりも多い――と、一般的に株価は上がる。反対に、株の供給が需要を上回る――つまり、売り手のほうが買い手よりも多い――と、一般的に株価は下がる。大丈夫かな? 

実際、この説明はこれまでも聞いたことがあるかもしれない。問題は、あまりにも簡単すぎて、重要には思えないことだ。なぜか。結局のところ、需要と供給は何かの結果であり、それら自身が理由ではないからだ。

「需要が上がったから株価が上がった」と言われたところで、実際に何が起こったのかについて何の情報も得られない。そうした情報を得るためには、一歩下がって、そもそも何が需要を増大させたのかを考えなければならない。それがわかれば、賢い投資判断を行えるようになる。

例えば、40ドルで買った株が70ドルで売買されていて、どうするべきか知りたいとする。その株を売却して利益を得るべきか、保有し続けて、さらに値上がりするのを待つべきか。再び、ハムレットの台詞みたいな疑問に舞い戻った。「売るべきか、売らざるべきか。それが問題だ!」

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立ち返るべきは「なぜその株を買ったのか?」

売るべきか否かについてアドバイスするにはまず、あなたがそもそもなぜその株を買ったのかを知らなければならない。そのとき、目標価格としていくらを思い描いていたのか? そして何よりもまず、どうして株価が上がったのか? 言い換えると、需要が増大した理由は何か? 

なぜその株を買ったのか:株の需要が増大しうる理由

株の需要が増大する理由は4つある。

需要が増大する理由その1:その企業は過小評価されていると投資家が考えたから。

需要が増大する理由その2:良いニュースがもうすぐ出ると投資家が考えるから。

需要が増大する理由その3:投資家が大馬鹿理論に従うから。

需要が増大する理由その4:投資家のセンチメントが上昇傾向にあるから。

需要が増大する理由その1:その企業は過小評価されていると投資家が考えたから。

→ある企業の株が過小評価されていると思われると、投資家は市場で、彼らが特売価格と思う価格で買おうとする。ウォール街用語で、このような投資家たちを「バリュー投資家」と呼ぶ。彼らのうち最も有名なのは、オマハの賢人として知られるウォーレン・バフェットである。

需要が増大する理由その2:良いニュースがもうすぐ出ると投資家が考えるから。

→投資家たちが宗教的とも言える熱心さで追いかける経済ニュースの種類はたくさんある。その一部として、初めての配当や増配の発表、買収の噂、買収の発表、新薬の治験の成功、重要な訴訟の決着、ウォーレン・バフェットやイーロン・マスクといった有名投資家の急な関与、形勢をがらりと変える契約の締結、新たな特許の承認、サブスク会員の急増などが挙げられる。

他にも、様々な種類のマクロ経済的ニュース――インフレ率や失業率、金利、GDP、貿易赤字、住宅着工件数などの変動――が挙げられる。

需要が増大する理由その3:投資家が大馬鹿理論に従うから。

→「大馬鹿理論」によれば、企業の株式の価値は、市場における最大の愚か者がその対価として支払おうとする金額である。言い換えると、ある株を買うべきか判断する際に、自分が支払ったよりも高い価格を支払おうとする他者が市場にいる限り、企業の本質的価値を考慮する必要はない、ということである。

株価が急激に上がっているとき、この理論はしばしば、最大の需要喚起装置として働き、新たな買い手-―馬鹿の記録を更新する馬鹿と称される――の波を次から次へと引き込む。結果として自分が最大の愚か者にならない限り、実際に愚かではないことになる。最後の愚か者が飛び込んできて自らの運命を決する前に、参入して退出するのだから、タイミングを見る目のある機敏なモメンタム・トレーダーだということになる。

需要が増大する理由その4:投資家のセンチメントが上昇傾向にあるから。

→投資家のセンチメントとは、株式市場の将来の行方についての投資家の総合的な感情や態度である。つまり、投資家は市場が上がると考えているか、下がると考えているか、ということだ。

経済状況、石油価格、誰と誰が戦争しているのか、数週間後に迫る決算報告、原料費の高騰、夜のニュースで聞いたことなど、他にも様々なことが背景として組み合わさり、投資家のセンチメントと呼ばれる集合意識を形作る。投資家のセンチメントが上昇傾向にある場合、「ショットガン効果」のようなものが生じ、それにより放たれた需要の大波が、文字通り数千種の株式の価格をその価値があるか否かに関係なく押し上げる。