子供でも意外と知らないのが両親の馴れ初め。娘であれば母親に聞いた人もいるかもしれないが、息子がそういった話を尋ねることはほとんどしないかもしれない。
内閣府男女共同参画局の統計によると、昔はお見合い結婚の割合が高かったが1960年代末に恋愛結婚の割合が上回ってからは差が開く一方。とはいえ、一言で恋愛結婚と括ってもストーリーは十人十色。なかには大っぴらに話せないケースもあるはずだ。
◆20歳の時、腹違いの兄から聞かされた両親の衝撃的な過去
「ウチの両親がまさにそれです。20歳を過ぎてから知ったから自分なりに受け入れることができましたが、それもショックでしたね。まさか不倫略奪婚だったとは……」
そう語るのは、製薬会社に勤める田沢和明さん(仮名・32歳)。彼には一回り近く歳の離れた兄がいるが、20歳になってしばらく経った大学2年のある日、初めて飲みに連れて行ってもらった席で両親の衝撃的な過去について聞かされたそうだ。
「父親に離婚歴があることは知っていて、兄は前妻との間に生まれた腹違いなんです。一緒に暮らしたことはないですが子供のころは年1~2回は会っており、私や3歳下の妹と一緒に遊んでくれたのを覚えています。でも、最後に会ったのは中学生の時だったため、5年以上ぶりの連絡に驚きましたが同時にすごく嬉しかった。まさかあんな話を聞かされるとは想像もしませんでしたけどね」
最初はお互い近況報告のような内容だったが、突然「お前ももう20歳だから本当のことを言うけど……」と前置きした上で話し始めた兄。それは父親と田沢さんの母親がかつての職場の上司と部下で、兄が幼いころから不倫関係があったこと、それが原因で離婚したという事実だった。
「前妻の実家は比較的裕福だったらしく、その援助と父からの養育費もあって兄が生活に困窮することはなかったそうですが、正直返す言葉がありませんでした。『お前は何も悪くないし、大切な弟であることに変わりないから』って言ってくれましたが、申し訳ない気持ちでいっぱいになり何度も謝っていました」
◆秘密を知り、両親とどう接すればいいかわからず疎遠に……
ただし、3歳下の妹にはこの事実を伏せてほしいと懇願。実は、もともと繊細な性格で中学時代には不登校だった時期も。母親のことが大好きだったため、両親の過去を知ったら妹が精神的に耐えられない可能性があると判断したからだ。
「両親が私にひた隠しにしていた不倫略奪婚だと告げることが兄なりの復讐だったのかもしれません。別に言わないままにすることだってできたわけですから。けど、自分と違って妹にこの事実を告げるのはあまりにリスクがありました。だから、それだけは本当にやめほしいと頭を下げました。
兄はちゃんと約束を守ってくれて、あれから12年経った今も妹は何も知りません。隠していることに対する罪悪感がないわけじゃないですが、打ち明けるよりはマシだったと今でも思っています」
しかし、田沢さんも以前と同じように両親に接することができず、距離を置くように。すでに大学生でバイトやサークル活動で忙しかったこともあり、両親と食事や話をする機会は少なくなっていたが就職を機に実家を出てしまう。その後は電車に1時間半ほどの距離だったが実家に顔を出すことはほとんどなかったという。
◆不倫略奪婚だと知ったことを明かすと母親から泣いて謝られた
「ただ、就職して3年目のとある週末、父から『近くまで来てるんだが、今から行ってもいいか?』と電話があり、アポなしで家に来たんです。そこで実家に顔を出さない理由を追及され、兄から聞いた不倫略奪婚の話を聞いたことを明かしました。父は『話したら嫌われてしまいそうで言い出せなかった。すまない……』と謝られ、母も『ずっと黙ってごめんなさい……』と泣いていました」
そこで両親から不倫の末の再婚だったことで祖父母や親族とは現在も最低限の付き合いしかないこと、前妻は高校時代の同級生で共通の友人知人からはほとんど縁を切られていることを聞かされる。
「特に父は祖父母から一時絶縁を言い渡されていたそうで、確かに小さいころは会った記憶がほとんどなかった。遠方で簡単に行ける距離ではなかったですが存命だったため、そういう理由だったのかと改めて納得しました」
◆実家には定期的に顔を出すようになった
わだかまりが完全になくなったわけではないが、この一件を機に両親との関係は改善。実家には定期的に顔を出すようになり、結婚して子供が生まれた今は2~3か月に一度のペースで会っている。
「私個人は不倫に対して嫌悪感を持っていますけど、それでも自分に愛情を注いで育ててくれたのは知ってますから。だから、やっぱり嫌うようなことはできませんよ」
倫理的、社会的には許されることではないが、世の中には不倫の末にゴールインしたカップルが少なからずいるのも事実。知らないだけで両親が不倫略奪婚だったというケースは思っていた以上に多いのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
―[奇妙な男女関係]―
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。