映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公のモデルとなったジョーダン・ベルフォート氏。ある日、義弟のフェルナンドから「相談に乗ってほしい」と言われたベルフォート氏。なんとフェルナンドは、60日足らずで10万ドル近い投資額を失ってしまったのだ。ベルフォート氏は、投資初心者である義弟に投資のアドバイスをする。米国企業を幅広く代表する約500の企業が採用されている株価指数「S&P500」を活用した正しい投資術とは? 本記事は、ベルフォート氏の著書『ウォールストリート伝説のブローカーが弟に教えた 負けない投資術』(久保田敦子訳・KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

この投資に並ぶものはほとんどない…「S&P500」の魅力

私…筆者

クリスティーナ…筆者の妻

フェルナンド…妻(クリスティーナ)の妹の夫。筆者の義弟

ゴルディータ…フェルナンドの妻であり、クリスティーナの妹

信じられない!と私は思った。私の義弟フェルナンドはまだ魔法の手を持っていた。しかし、今度は黒魔術ではなかった! 

ブエノスアイレスの最も高級な地域にあるタワマンの31階を占有する義弟夫婦

彼らの新しい住まいは前より大きく、居間はより広く、より高級な地域にあり、眺めはとんでもなく素晴らしく、そのすべては、義弟が市場のタイミングを計ろうとしてハマって行った短期投資の泥沼から戻ることができたことの何よりの証拠だ。彼にとって本当によかった、と私は思った。もちろん、ゴルディータにとっても。

午後八時を少し過ぎた頃で、私は彼らの新しいマンションの居間に座り、資産配分のプロセスに彼らを案内していた。彼のボロボロな投資ポートフォリオについて説明しようとしていたあの運命的な夜から一年ちょっと経ち、彼の金属加工の事業から得られる収入とゴルディータの不動産販売の手数料で、彼らはこの広々とした素敵なマンションを買うお金を貯めることができた。

ブエノスアイレスの最も高級な地域に位置し、艶消しアルミニウムの51階建てのタワーの31階部分を占有していて、ラ・プラタ川の絶景が望める。クリスティーナと私が三十分余り前に到着したこの場所は本当に素晴らしかった。

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この投資に並ぶものはほとんどない…「S&P500」の魅力

私は世界最大の投資ハックについて――ジャック・ボーグルという男がいかにしてS&P500を投資可能な金融商品に変え、それを噓みたいな低コストで個人投資家が利用できるようにすることで、投資信託業界の足をすくったか――説明したところだった。この投資に並ぶものはほとんどない、と。この点を強調するために、私は彼らに図表を見せた。



[図表]S&P500と債券のトータルリターンの比較

これは、アメリカの債券市場のリターンをS&P500と過去百年にわたって比較したものである[この表は財政状態が良好で債務不履行のリスクが比較的少ない政府や自治体、企業が発行する投資適格債券を対象としている。品質の低い債券はジャンク債と呼ばれ、財政状態が比較的弱く債務不履行のリスクがずっと高い企業が発行したものである。この高いリスクを埋め合わせるため、ジャンク債は投資適格債券よりもずっと高い利息を支払わざるを得ない]。

S&P500と債券のトータルリターンの比較結論(図表)は明確だった。長期的には、アメリカ最大の500社に投資することは、投資適格債券に投資するよりもずっと儲かる。リターンの差は一年当たり平均7.5パーセントを超える。

私は愛しの通訳者を通じてフェルナンドとゴルディータに言った。「ちなみに、長期複利を考慮すると7.5パーセントは大きな差を生む。例えば、君たちのような年齢と収入レベルでは、退職する頃には虹の彼方に数千万ドルが待っているなんてことが簡単にできる」クリスティーナは突然通訳をストップし「本当に?」と聞いた。

「もちろん本当さ! 必要なのは少しの忍耐……いや、大変な忍耐だ。大金を作るにはね。でも、10万ドルで始めて、毎月1万ドルずつ追加するなら(どちらも彼らの予算内におさまる)、三十年後には1300万ドルを超えるし、四十年後には4000万ドルを超える」私の言ったことを彼女が理解できるようしばし間を置いた。

「もちろん、これはS&P500がこれまでの長期平均を今後も維持すると仮定した場合だ。だが、過去百年間達成してきたことを考えたら、それが続く可能性はかなり高いと思う」

「ひゃー、そうなの」とクリスティーナは感心して言った。「私たちもそれをやっているんでしょうね?」。そして彼女は肩をすくめて私が今言ったことを通訳し始めた。間違いなく、彼女は見事に通訳した。なぜなら、十五秒後、フェルナンドはゴルディータに向かってスペイン語で言ったからだ。

「それだ! 他のデタラメとはおさらばだ。前に進もう。俺たちの金は全部S&P500に突っ込むぞ」。そして彼はゴルディータに自信たっぷりの笑みを投げかけた。ゴルディータはそれを受けて「この目で見ないことには信じられないわ」とでも言いたげに目をグルグル回し、肩をすくめた。