2024年10月から最低賃金が全国平均で1,054円に引き上げられ、中小企業には賃上げの負担が増し、「賃上げ疲れ」が見られるようになっています。持続的な賃上げには業績向上が不可欠ですが、それだけでは現代の厳しい環境では生き残れないと、社員50名の新聞販売店を23年間経営し、多くの企業を支援してきた米澤晋也氏は指摘します。本稿では、米澤氏が、これまでの知見を基に、中小企業が“賃上げマラソン”を走り抜ける方法について、具体的な事例を交えて解説します。

10月からの最低賃金は過去最大。中小企業は「賃上げ疲れ」に……

10月から最低賃金が、全国平均で1,054円となり、上げ幅は過去最大を記録しました。昨年に続き、2年連続の記録更新ですが、早速、息切れを起こしている企業が出始めているようです。

東京商工リサーチが行った調査によると、2024年度の賃上げは、大企業が94%と前年度から4.1ポイント上昇した一方、中小企業は82.9%と前年度を1.3ポイント下回っていることが分かりました。

同調査は「中小企業は、重い人件費負担から『賃上げ疲れ』がうかがえ、持続的な賃上げ実現の課題もみえてきた」と締めています。

政府は、最低賃金を2030年代半ばまでに1,500円にするという目標を明言しています。中小企業は、この長いマラソンをどのように走り抜けばよいのでしょうか。

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今、「業務改善」だけでは生き残れない

中小企業が持続的な賃上げを実現するためには、言うまでもなく、賃上げを可能にする業績をつくることが欠かせません。そのための方策として、DX化などが議論されていますが、結論から言うと「生活者も気付いていない欲求を創造すること」に尽きると考えています。

経済が良くなる3要素に「人口増加」「業務の効率化」「イノベーション」があります。これらは企業成長の3要素でもあります。しばらく人口増加は期待できませんので、残る2つに着手することになります。1つ1つ見ていきましょう。

業務の効率化が実現すると、リードタイム(工程や作業の開始から終了までにかかる時間や期間)が短縮します。これは、これまでの日本企業の競争力を支えてきた最大の要因と言えるでしょう。

これまで生活者は、モノの充足が課題でした。市場は枯渇しており、そこに効率よくモノを押し込める企業が業績を上げてきました。

しかし、今の生活者は、モノに満たされ満腹状態で、市場の飽和が進んでいます。「4Kテレビの次は8Kはいかがですか?」と言われても、もういっぱいいっぱいですよね。

この現象は日本に限ったことではありません。先進7ヵ国のGPDの成長率は、1960年代にピークに達し、その後、鈍化トレンドが続いています。このことは、多くの国でモノの充足がある程度完了したことを意味します。

驚くべきことに、私たちの生活習慣を根本から変えたインターネットをもってしても、鈍化傾向に歯止めをかけることができていないのです。飽和した市場では、大手を中心に、非常に競争が激しいゼロサムゲームが展開されます。とても中小企業が太刀打ちできるものではありません。

以上を整理すると、中小企業の業績対策は「業務の効率化」だけでは不十分と言えるでしょう。