年々過熱する中学受験。少子化傾向にもかかわらず、受験を考える家庭は増加を続けています。しかし、難関校への進学は、子どもにとって必ずしも良いことばかりではないのかもしれません。2児の母でもある石川亜希子AFPが、中学受験の実態について具体的な事例をもとに解説します。

“自慢の息子”から受けた衝撃の告白

都内郊外で暮らす松本久美子さん(仮名、44歳)は、夫の智之さん(仮名、47歳)とひとり息子の勇輝くん(仮名、14歳、中学2年生)との3人家族です。智之さんは警察官で、久美子さんも公務員として働いており、世帯年収は1,100万円ほど。勇輝くんは中学受験を経て、大学までエスカレーター式の難関私立中学に通っています。

夫婦は地方出身で中学受験の経験はありませんでしたが、智之さんの強い希望により、中学受験を選んだそうです。

自分にも周りにも厳しい智之さんは、ノンキャリアながら警視まで出世した努力家。そんな智之さんでしたが、自分よりもひと回り以上若いキャリア組がどんどん出世していく様を横目に、知らず知らずのうちに学歴コンプレックスを募らせていたようです。

「息子には必ず良い学歴を!」勇輝くんが生まれたときから、智之さんは固く心に決めていました。

正直、久美子さん自身にそこまで強いこだわりはありませんでしたが、単純に良い環境で教育を受けるのは良いことだと考えていました。

両親主導のもと、小学校低学年から集団塾に通い、高学年になると個別指導塾も併用、勇輝くんも両親の期待に応えようと熱心に勉強し、見事、難関私立中学に合格しました。

「でかした! さすが俺の息子だ!」と満足気な智之さんのやや支配的な言動に違和感を抱きつつも、久美子さんは、息子をねぎらい、明るい未来に思いをはせていました。

楽しそうに通学していたが…息子の「修学旅行に行きたくない」発言に絶句

憧れの学校に通いはじめ、毎日楽しそうにみえた勇輝くんでしたが、中学2年生となった修学旅行の数日前、突然、母親である久美子さんに言いました。

「お母さん、俺、修学旅行に行きたくない」

「えっ……。ど、どうしたの? もしかして無視されたり意地悪されたりした?」

息子が学校生活を楽しんでいるとばかり思っていた久美子さんは絶句。息子の苦悩に気づかなかったなんて……しかし、勇輝くんはさらに予想外のことを口にしたのでした。

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学校行きたくない…息子が泣きついてきた“残酷な原因”

「いじめとかそんなんじゃないよ。お願い、お父さんには言わないでほしいんだけど……今の学校、友だちと話が合わなくて、辞めたい。ねえ、引っ越さなくてもいいから転校だけでもしちゃだめ? 勉強なら別のとこで頑張るからさぁ。もう学校行きたくないよ……」

久美子さんがもう少し詳しく話を聞いてみると、最初は口ごもっていた勇輝くんでしたが、これまで誰にも言えなかったのでしょう、途中からせきを切ったように話しだしました。

「クラスメイトがお金持ちばかりで話題についていけないし、一緒に遊びにも行けない。みんな悪いやつらじゃないからいじめられたりはない。でも、お金がないから気を遣われて誘ってもらえなかったりする」

聞けば、

・土曜日の学校帰りにファミレスに行くと、平気で2,000~3,000円するものを注文する

・ゲームには何万円も課金している

・試験休みのたびにディズニーランドに行こうという話になる

・新幹線でユニバーサルスタジオジャパンに行こうという計画もある

・何かしらのキャッシュレス決済の手段を持っていて、親が上限なくチャージしてくれる

久美子さんの想像する中学生の遊びとは桁違いのエピソードがどんどん出てきました。

勇輝くんには、食費や交通費とは別に月5,000円のお小遣いを渡していましたが、「1回遊んだら終わり」だったそうです。

「お小遣い、もう少し上げてもらうようお父さんに言ってみる?」

「止めてよ! そんなの怒りだすに決まってる!」

たしかに、堅実で努力家の夫は怒り出すでしょう。

「そうよね。でも、そんな理由で転校したいっておかしいと思う。お金がないと友だちになれないの? そんなはずないでしょう?」

「そうだけど……。お母さんには、オレが毎日学校でどれだけ惨めな気持ちになってるかわからないんだよ!」

話はいったんそこで終わりましたが、久美子さんは考え込んでしまいました。お小遣いをもう少し上げることは可能ですが、それで解決する問題とは思えません。夫に話しても、怒り出すさまが目に浮かびます。

悩んだ末、金融機関に勤めておりFPの資格も持つ保育園時代のママ友に相談してみることにしました。