収益物件を「収益を生み出す状態」で維持するには、費用をかけたメンテナンスが不可欠です。もし収益物件を相続した場合、メンテナンス費用の確保ができておらず、所有者の持ち出し必須となっていたら、それはすでに「収益物件」の体をなしていないかもしれません。相続専門税理士の岸田康雄氏がやさしく解説していきます。
相続した築古アパート、実は「とんでもない負動産」で…
父親の賃貸アパートを相続した40代の男性の相談内容をご紹介します。
男性のプロフィールと資産状況などは以下のようになります。
年 齢:42歳
勤務先:都内の上場企業
年 収:約800万円
家族構成:40歳の専業主婦の妻、10歳の長女の3人暮らし
自 宅:中野区のマンション、35歳で購入
住宅ローン:35年、毎月の返済額10万円
★相続人
本人と70代の母親
★相続財産
戸建ての自宅、築古の賃貸アパート、現預金、有価証券、絵画、骨董品
★それぞれの遺産分配
母親:自宅、絵画、骨董品、有価証券
相談者:木造2階建て築40年の賃貸アパート、現預金
この40代の相談者は現在、とても厳しい局面に立たされている状態です。
自宅マンションの住宅ローンは35年で組んでおり、返済は70歳まで続きます。ただし、勤務先は再雇用制度があり、70歳まで勤務可能とのことです。そのため、細く長くローンを返しつつ、子どもの教育費や夫婦の老後資金を無理なく貯めようと考えていました。
相続人はご本人と70代のお母様の2名です。お母様は「配偶者の税額軽減」の特例を適用したため相続税がゼロになりましたが、相談者は相続税がかかったことから、相続した現預金を納税に充てました。その結果、手元に残った相続財産は、賃貸アパートの土地と建物のみでした。
ここで大きな問題が判明します。相談者は、アパートの家賃収入で住宅ローンを返済するだけでなく、うまくすれば資産形成も可能かもしれないと楽観的に考えていたのですが、ふたを開けると、実際の賃貸経営の状況は、かなり厳しいものでした。
物件を管理する不動産会社に尋ねたところ、現状では全10室のうち6室しか入居しておらず、残り4室が空室です。そもそも、この賃貸アパートは駅から徒歩20分の立地で、新築でもなかなか入居者が決まりにくいところなのです。
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不動産会社は「家賃値下げ+リノベ」を提案するが・・・
不動産管理会社の話では、手っ取り早く入居者を見つけるには、いまよりさらに家賃を下げるか、思い切った修繕や改良を行うしかないそうです。
提案されたリノベーションは、畳をフローリングに替え、各部屋にケーブルテレビ回線を設置するなど、かなり大掛かりなものです。そのためにはまとまった費用が必要となり、相談者は、さらなる自己資金の投入が求められます。
本来であれば、賃貸アパート経営に必要な経費は、家賃収入から賄うべきものです。そうでないと、相談者のように家計を圧迫することになってしまうからです。
築古になれば修繕が必要になるのは当然ですから、事前に計画的な費用の積み立てを行っておくべきでしょう。今回相続した物件のように、その費用が準備されていないなら、言葉は厳しいですが、実質的に「負債」を引き継いだことと同義だといえます。
相談者は、家賃収入を住宅ローンの返済に回すどころか、いまの預貯金が食いつぶされ、ヘタをしたら家計の破綻リスクもある状態となっています。
その状況なら、むしろ賃貸アパート経営は止めたほうがいいでしょう。思い切って解体し、更地にして売却することをお勧めします。いまの立地での賃貸経営は苦しいですが、建売分譲住宅としてなら売れるかもしれません。ただし、現在の入居者には立退き料を支払い、部屋を空けてもらう必要があります。