日本のM&A業界において、大企業向けにはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)サービスが提供されてきた一方で、中小企業向けにはM&A仲介サービスが提供されてきました。しかし作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)は、特に中小企業M&Aの売り手側においては、利益相反のないFAを起用することが有効な選択肢になるといいます。本稿では「FAサービスの支援内容」を中心に、FAと仲介の違いを見ていきましょう。
“真のFA”がオーナー経営者に提供する価値とは?
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)はどのような支援を提供するのでしょう。具体的に、M&Aにおいて「売り手の利益を守り、追求する」とはどのような取り組みを指すのでしょうか。今回はFAがオーナー経営者に提供する価値について解説したいと思います。
売り手の事業オーナーの立場からすると、M&Aにおける利益追求とは主に、(a)理想のマッチング、(b)理想の売却額、(c)理想の取引条件の追求に整理することができます。
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(a)理想のマッチング
理想のマッチングの追求とは、事業を継続的に成長させてくれる買い手に託したいとか、屋号や従業員の待遇を維持してくれる買い手にお願いしたいといった、条件を満たす譲渡先を追求することです。
ここで、一般的なM&A仲介とFAのマッチング手法の違いについて解説したいと思います。
<M&A仲介のマッチング>
M&A仲介サービスにおけるマッチングは、主に「ニーズのマッチング」です。つまり、実際に買い手から聞いた買いニーズと売りニーズをマッチングさせるというものです。実際に聞いてきたニーズですから、案件を持ち込んだとき、実際に買い手が関心を示す可能性が高い点がメリットといえます。
<FAのマッチング>
FAサービスにおいても実際に把握している買いニーズとのマッチングは行いますが、M&A戦略の一環として、親和性の高い事業を営む買い手候補を特定し、提案することが特徴です。実際に買いニーズを把握している会社は限られるため、潜在的に関心を示す可能性のある企業をリストアップしていくアプローチです。
なお、FAサービスは買い手から手数料を徴収しないビジネスモデルであるがゆえに、独自の買い手のネットワークの観点で仲介会社に劣るのが一般的です。他方、買い手から手数料を徴収しないため、金融機関や大手仲介会社をはじめとした他業者と買い手探索で連携できるメリットもあります。FAを起用する場合には、外部連携も含めて十分な買い手探索が可能な体制を持っている業者であるか、精査が必要です。
前回記事のとおり、M&A仲介サービスでは紹介してもらえる買い手候補企業に制約が生じるケースがありますが、FAは買い手から手数料を受け取りません。そのため、利益相反リスクや高額な仲介手数料がネックで買い手候補が離脱することはありません。買い手から受け取る手数料を気にする必要がないので、売り手にとって理想の相手をとことん追求することができます。