14日午後、大分県でタクシー強盗が発生した。報道によると、女性運転手にハサミを突きつけて「降りろ」と脅し、タクシーを奪ったという。その後、タクシーは現場近くで発見され、乗っていた容疑者は現行犯逮捕された。
こうした「タクシー強盗」は、強盗カテゴリーの非侵入強盗に分類され、毎年一定の割合で発生している。警視庁が2024年8月に発表した「令和5年の刑法犯に関する統計資料」によると、2023年の認知件数は56件。この10年間は100件前後で推移してきた中で、最少となっている。
ちなみに、侵入強盗に分類される住宅強盗は同年で131件、コンビニ強盗は136件。これらも同様に減少傾向にある。
2023年の検挙率は100%
タクシー強盗で目を引くのはその検挙率だ。2023年は検挙数が認知件数と同じ56件。つまり、100%の検挙率だった。強盗全体の検挙率が90.5%(2023年)であり、そもそも高めとはいえ、タクシー強盗で逃げ延びるのは極めて困難なことを示す数字といえるだろう。
タクシー強盗における検挙率は常に高い(出典:警察庁「令和5年の刑法犯に関する統計資料」)
なぜ、タクシー強盗の検挙率がこれほど高いのか。警察の捜査力はもちろんだが、大きな要因として、タクシー会社による徹底した防犯対策があげられるだろう。
たとえば、全国ハイヤー・タクシー連合会は、タクシー強盗に対する次のような防犯基準を策定している。
営業所等で防犯責任者を指定
乗務員に防犯必携(防犯マニュアル)の周知
新規採用者に対する防犯訓練指導
車両の安全点検時に防犯設備も併せて点検
乗客に対する声かけの励行、必要最小限度の現金の所持
車外防犯灯(屋上灯、あんどん)の設置、防犯仕切板、防犯カメラ等防犯設備の設置等
より直接的な対策としては、車内の防犯ガラス及び緊急通報システム等も設置などもある。防犯ガラスの設置率は、同連合によれば全国平均で74.3%(2023年3月現在)だ。
現金のやり取りもあり、顧客と2人だけになるケースも多く、タクシーには強盗を企てる側にとって条件が整っているようにもみえる。だからこそ、タクシー会社も防犯対策を業務に組み入れるなど、トラブル発生後の円滑な対応を訓練することで、被害の最小化および検挙率アップを後押ししている。
デジタル化も検挙率アップを後押し
社会のデジタル化も検挙率向上に貢献している。電子マネーによる運賃支払いの普及で、車内への現金持ち込みが最小限になっていることに加え、昨今は、各社がタクシーの配車にアプリを活用するケースも一般的になった。その結果、犯罪発生時には、アプリデータを活用し、容疑者の動きを追えるようになった。
たとえばタクシーアプリ「GO」を展開するGO(株)は、「捜査機関から法令に基づく照会があった場合、該当者の移動データを提供するなど、捜査協力を行っています」と警察当局との事案発生時の密な連携を明かす。併せて、タクシー会社はドライブレコーダーの映像を捜査機関に提供するなど、犯人検挙を全面サポートする。
タクシー車内およびその周辺は全方位で監視された状態となり、強盗を行い逃げ切るのは極めて困難という実状だ。
タクシー強盗罪の法定刑
タクシー強盗に科せられる罪は重い。最も典型的な罪名は、刑法第236条1項の「強盗罪」だ。ドライバーを殴ったり、刃物をみせ、「金を出せ」と脅したりして売上金を奪うといった行為が処罰対象として該当する。
タクシー強盗の場合、刑法第236条2項に、1項と同様の方法で財産上不法の利益を得たり、他人に得をさせたりした者も強盗罪にするという規定があり、「強盗利得罪」に問われる可能性もある。
具体的には、殴る、蹴るなどの暴行や危害を加える旨を告げて脅したうえで、料金を踏み倒し逃走した場合、同罪が成立し得る。酔った勢いや運転手とのトラブルだったとしても”強盗”になるリスクがあるということだ。
売上金などの強奪目的で運転手を暴行し、ケガを負わせたり、死亡させたりした場合は、刑法第240条の「強盗致死傷罪」が成立する。死亡した場合は「強盗致死罪」となり、特に厳しく罰せられる。
上記に関する罪の法定刑は、「強盗罪」「強盗利得罪」が5年以上の有期懲役。「強盗致死傷罪」は、致傷なら無期または6年以上の有期懲役、致死なら死刑または無期懲役が科せられる。3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、仮に強盗罪で有罪になれば刑務所収監は免れず、かなりの厳罰といえる。
あくまで参考だが、都内のタクシー強盗の平均被害額は、数年前のデータ(東京ハイヤー・タクシー交通共済協同組合)で8000円前後とされる。この金額とタクシー会社の防犯対策および100%の検挙率、5年以上の有期懲役等もあり得る罪の重さ等を考慮すれば、タクシー強盗は極めて“割に合わない”犯罪といえよう。