ニュージーランドに将来性を見いだし、1998年、北島のホークス・ベイに「クラギー・レンジ」を立ち上げたテリー&メアリー・ピーボディ夫妻。ホークス・ベイの「ギムレット・グラヴェルズ」と、マーティンボロの「テ・ムナ・ロード」のブドウ畑に特化して、世界の偉大なワイナリーに比肩するワイン造りに挑戦。四半世紀に満たない間に、その夢を実現させた。
「クラギー・レンジ」の創業者の孫でブランドアンバサダーを務めるデイヴィッド・ピーボディ氏が来日。ワインの試飲を交えながら、沿革について語った。
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所有するホークス・ベイの「ギムレット・グラヴェルズ」の広さは600ヘクタール。1876年、ガルロロ川の洪水で、グレイワッキと呼ばれる灰色の石と、砂、シルトが層になった特有の土壌が形成された。川沿いの小石混じりの場所にはシャルドネ、もともと川があった場所にはカベルネやメルロなどのボルドー系品種やシラーを植樹。海に近い冷涼な海洋性気候のホークス・ベイの中でも、このエリアは気温が2~3度高めで、降水があっても保水力は低い。
まだ10代だった若きデイヴィッド氏の心を射止めたシラーは、冷涼エリアならではの優雅さがあり、「スムーズな質感が特徴、コショウのような香り成分ロタンドンの含有量は他の産地より多い」とコメントした。
マーティンボロにある「テ・ムナ・ロード」は、昔の川床からなるマーティンボロ・テラスで、畑の一部は緩やかな斜面。ローム層や火山灰土壌の上部ではピノ・ノワールを、石灰質土壌や小石混じりの堆積土の下部にはソーヴィニヨン・ブランを栽培している。厳選したピノ・ノワールとソーヴィニヨン・ブランのクローンは、それぞれ30種ほど使用。サイクロンが襲来した2023年は、果皮が厚く、熟すのが遅いエイベル・クローンのピノ・ノワールは被害を受けずに済んだ。マーティンボロの救世主的なクローンに対して、デイヴィッド氏は絶大な信頼を示す。
最高の場所からワインを造るという理念のもと、クラギー・レンジではオーガニックへの転換も進行中で、マーティンボロのテ・ムナ・ロードが完成すれば、NZ最大の有機栽培畑になる。約50ヘクタールの土地に、自生の苗木を茂らせ、自然の循環サイクルを生かすことで、ワインをよりナチュラルな造りに変えていくプロジェクトにも着手。最高品質のピノ・ノワールを造るため、現在3へクタールほどでビオディナミを導入、CO2を排出しない取り組みも進んでいる。
クラギー・レンジは、ニュージーランドのワイナリー第1号として、歴史あるフランスのワイン流通網「ラ・プラス・ド・ボルドー」に参入した。2020年ヴィンテージのトップレンジ『ル・ソル』と『アロハ(PN100%)』が最初で、今年で3回目だが、デイヴィッド氏は「ラ・プラスによるワインの広がりは、ブランドイメージのアップになる」と言及。
世界中のトップレストランで自分たちのワインがサービスされることを望んでいた創業者テリー氏の夢に繫がった。この先1000年に及ぶワイナリーの存続を願うテリー氏の夢は、世代を超えて果てしなく続いていく。
【問い合わせ先】WINE TO STYLE株式会社 TEL:03-5413-8831
text & photographsby Fumiko AOKI