オーナー家による大型買収で非公開化した大正製薬HDの事例

大正製薬HDの事例は、株式買付け総額約7,100億円の日本企業最大のMBOである。同社はMBOの目的について、中長期的な成長のために事業構造の大きな転換と先行投資が必要であると説明。それらの投資を株式市場からの評価にとらわれず迅速に行うため、非上場化に踏み切るというものであった。

「大正製薬という社名は知名度が高いため、上場コストと効果が見合わない。大衆薬の収益力向上やグローバル展開に向けた他ブランド買収などには時間とリスクを伴うため、経営資源を集中させたい」という経営判断であったと思われる。

一方で、事業承継対策の側面も大きいことが推察される。今回、7代目社長の長男が代表の会社(受け皿会社、持株会社)が、金融機関からの借入金により大正製薬HDの株式を買収している。議決権のある株式を取得するのは長男世代だけのため、経営権の移行が実現する。

また、それ以外の世代は議決権を失うとともに、非上場企業の相続税評価額が適用されることで、相続税負担が軽減される可能性がある。

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未来に経営を繋ぐ「MBO・MEBO」の重要性

非上場企業においては、親族承継から親族外承継への流れが加速しており、MBO・MEBOのニーズが急激に増えているが、そのスキームを知らない経営者も多い。一部事例で示したように、MBO・MEBOは、中小・中堅企業から大企業までさまざまなニーズがあり、各社におけるメリット・デメリットを検討したうえで、個社別のスキームを検討する必要がある。

現オーナー・経営陣と経営を引き継ぐ次世代のオーナー・経営陣が、持続的成長と社員の雇用継続といった会社の目的を明確にし、覚悟を持って経営判断を行い、未来に経営を繋ぐ「MBO・MEBO」の意思決定をしてもらいたい。
 

鈴村 幸宏

株式会社タナベコンサルティング

コーポレートファイナンスコンサルティング事業部

エグゼクティブパートナー

メガバンクにて融資・外為・デリバティブ等法人担当を経て、当社入社。「企業を愛し企業繁栄に奉仕する」を信条とし、経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、成長企業に対するホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績を多数持つ。また、オーナー企業に寄り添った事業承継支援、経営者(後継者)育成も数多く手掛け、高い評価と信頼を得ている。