退職金4,000万のうち3,200万円を失う

仕組債を購入したAさん夫婦の退職金は結果的に、大きな損失を負い、4,000万円あった退職金は1年で3,200万円を消失し、800万円になってしまいました。

なぜこのような結果になってしまったのでしょうか。仕組債の内容について触れていきたいと思います。

仕組債は、その名称のとおり特別な「仕組み」を持つ債券でこれまでさまざまな種類が発行されています。一般的な債券にはない、スワップやオプションなどのデリバティブ(金融派生商品)が組み込まれているという特徴があり、多くの場合、預金商品よりも高い年利率が示されています。

Aさん夫婦が購入したのはEB債というもので、他社株転換可能債券と言います。紐づけられた株式の価格の推移に応じて満期時の受け取り金額、受け取り方法が異なるため、株式投資と同等の経済効果を持つといわれています。

なお、株式投資では価格変動による損失または利益がリターンとなりますが、EB債の場合は株式投資と同等の経済効果と言っても、価格上昇による恩恵を受けられることはありません。

個別の商品によっても異なりますが、たとえばよいケースでは利息を受け取りながら、元本が返ってくるという一方、最悪のケースでは、利息は受け取るものの元本割れし、加えて為替差損も加わる可能性もあるといった、利益がある程度限定されるなかで多大な損失も想定されるとても複雑な金融商品なのです。

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表面的には魅力的に思えるが…

商品の内容やリスクについてひととおり説明は受けるなかで、Aさん夫婦が聞き、理解した仕組債の概要は以下のようなものでした。

・社債を発行するB社は老舗の金融機関であること
・満期は1年、年利率は13%(税引前)で預金や個人向け国債と比較すると断然利率はよく、かつ利払い日は年に4回あること
・参照される株式は米国の有名企業のものであること
・中途解約をすると元本割れする可能性があること
・ノックイン事由といって株価が一定の価格に達した場合、元本割れする可能性があるが、直近の株価の推移ではノックイン価格に至ったことはないこと

確かに、このような断片的な情報だけを拾っていくと、さほどの危険性は感じられないかもしれません。むしろ特別な価値ある組成の金融商品を勧めてもらっているという特別感を感じるかもしれません。しかし、これでは表面的な事項の理解にとどまっているといわざるをえません。

Aさん夫婦にこれまで投資経験はありませんでした。投資経験のないAさん夫婦にリスクの高い金融商品を勧めているところ、担当者は本人の意向を十分に理解し勧めているのか、という点には疑問が残りますし、リスクに関する説明不足も推察されます。

ただ、仕組債によって結果的に株式投資に近いことをするのであれば、表面的な情報の理解ではリスクの理解が不足しますから、Aさん夫婦は購入前にもっと商品内容や紐づけられた株価の過去の動き、事業内容や直近の決算内容、経済全体の構造などについて理解できるよう、努めるべきだったという反省点も挙げられます。

自宅の修繕費用や生活費の取り崩しが重なり…

Aさん夫婦はその後、自宅の修繕費用や生活費の取り崩しが必要になり、結局残った800万円の退職金もすぐに使い切ってしまいました。

Aさん夫婦にとって、退職金は老後生活に必要な資金だったのでしょう。これでは、本来大きなリスクをとって運用にあてていい資金ではなかったと言わざるを得ません。せめて、契約前にご自身に投資の知識が不足していることを認識し、ご自身たちにとって退職金はどのような用途が考えられる資金なのか、1度でも一緒に立ち止まって考えられる相談相手を選んでいただいていれば、このような事態にならなかったかもしれないと思うと、とても残念に思います。
 

内田 英子

FPオフィスツクル

代表