園芸を行う上で必要不可欠な物として「土」があります。特に地植えや家庭菜園をする場合は、植栽する場所の土によって、水はけや水もちの良し悪しや土壌酸度の違いなどがあるため、土の性質をよく理解した上でその場所に適した植物を植えたり、適した土に改良することが大切です。土壌改良を行う際に役立つ物の一つが「石灰」で、特に野菜などを育てる場合には欠かせない資材。石灰には複数の種類があり、植え付ける作物に合わせて選ぶことが大切です。ここでは石灰の役割や種類、使うときの注意点や使い方のポイントをご紹介します。
家庭菜園における石灰の使用目的
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まずは、家庭菜園で石灰を活用する主な目的について確認してみましょう。
酸性に傾いた土壌の中和
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多くの植物はpH5.5程度の弱酸性土壌を好みます。しかしながら降水量の多い日本では雨が降ると土壌中のミネラルが流れ出しやすく、近年は酸性雨の影響もあり、土壌全体が酸性に傾きやすい状況にあります。プランター栽培など土の量が限られている場合は、アルカリ分の流出や酸性の化学肥料の使用により、用土の劣化による土の酸性化がより早まりやすいです。
土が酸性に傾くことは植物に必要な養分であるカルシウムやマグネシウムの流出に繋がるほか、植物の根に障害を起こすアルミニウムイオンが土壌中から溶け出したり、養分となるリン酸の吸収が阻害されたりしてしまいます。また微生物の活動が緩慢になり、有機物の分解が遅くなるなど、多くの弊害があります。アルカリ性の石灰を酸性に傾いた土壌に混ぜ込み、中和することで、そのような状況を予防する効果があります。
カルシウムの補給
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植物の生育に欠かせない栄養素としてチッ素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)がありますが、それ以外にも大切で必要な微量栄養素は多くあります。カルシウムもその一つで、植物が細胞壁を作る上で欠かせない栄養素です。特に新しく作られる根や茎を成長させる際に必要で、十分なカルシウムを吸収している株は丈夫な細胞壁を持ち、病害虫にも強く、しっかりした株となります。石灰の主成分はカルシウムであるため、苦土石灰を施肥することで土壌中のカルシウム量を増やすことができます。カルシウムは水に溶けやすく、雨などで流出しやすいため、雨の多い地域では定期的に供給する必要があります。
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家庭菜園でよく使われる石灰の種類
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ガーデニングや野菜類を栽培する際によく使われる石灰の種類としては、消石灰、苦土石灰、有機石灰の3種類があります。ここではそれぞれの特徴と使い方について解説します。
消石灰
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消石灰(しょうせっかい)の原料は石灰石(炭酸カルシウム)と呼ばれる鉱物です。この石灰石を細かく砕き、焼成、加水、消化、熟成の工程を経たものが消石灰(水酸化カルシウム)となります。消石灰は石灰資材の中でもアルカリ性が強いため、中和作用が強力です。強酸性土壌の土壌改良を行う際に使用します。
石灰資材の中では酸度調整効果が高い消石灰は、取り扱いに注意が必要です。植物の根が直接消石灰に触れると傷んでしまうため、施しすぎたり熟成が不十分だと植物や作物に害を及ぼすことがあります。与えすぎに注意し、最低でも植え付けの2週間前、できれば1カ月前に土に施し、十分に土になじませてから利用するようにしましょう。また、この消石灰は目に入ると失明の危険があります。風の強い日の散布や子ども、ペットなどがいる環境下では使用しないようにしましょう。
苦土石灰
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苦土石灰(くどせっかい)の苦土はマグネシウムを意味します。石灰はカルシウムのことなので、この苦土石灰はマグネシウムとカルシウムの混合物ということを表します。家庭菜園で利用するのはほとんどこの苦土石灰です。苦土石灰の原料は「ドロマイト」という鉱石で、それを粉や粒状にしたものを使用します。ドロマイトの主成分は酸化マグネシウムと炭酸カルシウムなので、土壌中の中和と栄養補給を同時に行うことができます。すぐに土壌中に溶けることなく、中和作用が緩慢なため根を傷めにくいという利点があります。そのため家庭菜園初心者でも安心して使うことができます。
有機石灰
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有機石灰とは貝殻や卵の殻など有機質由来の石灰を粉砕し、粉状にしたものです。中和能力は高くなく、強い酸性土壌の改良には不向きですが、その分緩やかな土壌変化となり、同時に有機肥料として植物の栄養補給にも役立ちます。発熱などの化学反応もなく、他の肥料と一緒に使うこともでき、施肥後にすぐ苗の植えつけもできます。水に溶けにくく長期にわたって効果が持続するので中長期的に栽培する植物に向いています。市販されている有機石灰は牡蠣(かき)の貝殻を細かく砕いたものが多いです。そのほかにもエビやカニの殻を砕いたものなどもあり、これは土壌にキチン質を増やすことで有用な菌を増やし、病原菌のフザリウム菌やセンチュウなどの病害を抑制すると言われています。