気に入っているものほど、使う頻度が高くなる。だから、汚れたり壊れたりすることも。それでも愛おしさは残るので、処分するにはしのびない。そんな思いのこもった品をプロに頼んだり、自分の手で直したりしながら使い続けている人々に、愛用品と〝直したい気持ち〞を教えてもらった。
手前は初めて改造をしたものと同じ機種の「SANYO MR-U4」。1979年に発売されたヒット商品。奥は「SHARP GF-508ST」。 どちらもBluetooth仕様に。
スピーカーを生かして壊れたラジカセを復活させる。
「とにかく音の鳴るものが好きなんです」という、山口明さんが愛するラジカセ。1970年代後半から’90年代に普及した、装飾がたくさん付いた角ばったフォルムが好きで、今見ても惚れ惚れするという。最初に購入したのは15年ほど前。
「学生時代にヒップホップが好きで、黒人が肩に担いでいた大きいラジカセに憧れていました。その後、カメラマンとして独立して事務所を構え、場所が広くなったことから、ネットオークションなどで少しずつ買い集めるように」
とはいえ、中古機器のため壊れているものも。それらを新たに使えるように改造を始め、それがいつしか趣味のようになり、今に至っている。
「この2台は電源も入らない状態でしたが、スピーカーは生きていました。なので、分解し、Bluetoothのアンプ基板を入れてスピーカーの線と繋いでやると、スマホから音楽を飛ばして聴けるようになります。そして本体に穴を開けてアンプのつまみを外に取り付けました。電気的な修理はしておらず、やっていることはプラモデルづくりみたいな感じですね」
それで音楽を流すと、懐かしい音がして、ノスタルジックな気持ちになるという。
「実はラジカセだけでなく服やバッグなどもダメージが出たら縫うなどして、直して使っています。ものが直ったり、使えなかったものが使えるようになると、脳からドーパミンが出るというか、ものすごく高揚するんです」
高音と低音が別々に操作できるようアンプを繋いでつまみをつけた。上が高音、真ん中が低音、下は電源。
山口 明 Akira Yamaguchiフォトグラファー
2009年、スタジオ勤務を経てフリーランスのフォトグラファーに。コレクター気質もあるため、ラジカセは常時20台程度所有。ずっと手元に置いておきたいもののほかは、直しては友人らに譲っている。
photo : Takashi Ehara edit & text : Wakako Miyake
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