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 アクティブで忙しい毎日を過ごすなかで、どうしても食事の時間は圧縮されがちだ。しかし、家族や友人と語り合い、ゆっくりとよく噛んで食べることは、心身の健康にもポジティブに働く。経済協力開発機構(OECD)が集計したランキングによると、ヨーロッパでは1日に平均2時間以上を飲食に割いている国があるほどだ。日本は2時間とまではいかないが、平均値をやや上回る程度の食事時間を確保できているようだ。

◆ヨーロッパで重視される食事時間

 OECDが2018年に発表したランキングは、各国の15歳から64歳が、飲食に費やす1日あたりの平均時間をまとめたものだ。最長の国と最短の国では倍ほどの開きがあり、ヨーロッパと北米の食習慣の違いが如実に表れている。

 ヨーロッパの国々が食事に多くの時間を割く一方で、北アメリカや一部のアジアの国々では短時間で済ませる傾向が見られる。これは文化的な価値観やライフスタイルの違いが大きく影響していると考えられる。

 データはOECD加盟国26ヶ国にインド、中国などを加えた計29ヶ国から集められたもので、2015年またはそれに近い年のものを使用している。なお、ギリシャ、ポルトガル、中国、ポーランド、ベルギー、オーストラリア、スウェーデンは、調査対象の年齢層が異なることから、完全に同一条件の比較にはなっていない。

◆アメリカの飲食時間、なぜ短い?

 アメリカやカナダなどの国々は、食事時間が非常に短い傾向にある。アメリカの場合、合計食事時間は1時間2分となっている。仮に1日3食に均等に割り振ると、1回の食事にほぼ20分しかかけていない計算だ。こうした北米の国では、食事が効率的に済まされることが多く、ファストフード文化の影響も大きいと考えられる。忙しい生活のなかで、食事にかける時間が短くなる傾向があるようだ。

 欧州メディア『ローカル」フランス版は、アメリカでは食事は迅速に済ませるべきものとの認識があり、レストランでの食事も「入って、食べて、出る」と速やかに済ませることが一般的だ、と解説する。同じくフランスのコネクション紙も、アメリカの食事文化はフランスのように食事を長時間楽しむというよりは、必要な栄養を迅速に摂取することに重点を置いているとみる。

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 英ガーディアン紙は、アメリカでは個人で別の作業をしながら、平行して食事を済ませることが多いと指摘する。たとえば、車の中やデスクで済ませるなどだ。フランスの社会学者であるティボー・デ・セイント・ポル氏は、「フランスでは食事は一日のなかで最も楽しい時間の一つとされているが、アメリカではそうではない」と述べている。

 アメリカの食事時間の短さは、肥満率の高さとも関連している。OECDの調査によれば、アメリカの成人の38%が肥満であるのに対し、フランスでは15.3%に留まる。

◆フランスの長い食事時間、もはや「1日の主要な活動」

 一方、食事に多くの時間を費やす国は主にヨーロッパに集中している。なかでもフランス、イタリア、スペインなどは食文化が非常に発達しており、食事が単なる栄養摂取ではなく、社交やリラックスの時間として重要視されている。フランスの2時間13分は、最短のアメリカの1時間2分と比較して、倍以上の時間に相当する。

 ローカル・フランス版は、フランスのレストランでは3品のコース料理を数時間かけて楽しむことが一般的であり、ウェイターから急かされることもない、とする。アメリカとの食環境の違いは、フランス人が食事を通じて人間関係を深めることを重視していることも示しているようだ。

 なお、豪SBSによると、フランスでは午後から夕方にかけて、「グテ」と呼ばれる間食の習慣がある。大人の場合はワインやチーズ、パンなどをつまむ。3食以外にこうした時間を設けていることも、飲食の時間を伸ばしている要因となっていそうだ。

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 ガーディアン紙によると、多忙化する現代でも食事時間は損なわれていない。そればかりか、1986年から2010年にかけて、1日の食事時間は13分も伸びたという。調理に費やす時間も考慮すると、食に大きな時間を割いていることになる。フランス・カシャンに位置する高等師範学校の社会学者、ティボー・ド・サン・ポル氏は2006年、雑誌エコノミー・エ・スタティスティックへの寄稿で、「食事に直接関連する家事労働の時間を足すと、これは1日の主な活動のひとつである」と述べている。

◆日本は平均的だが、早食いの人は要注意

 アジアの国々では、日本や韓国(1時間45分)が比較的長時間となっている。日本は1時間33分でOECDの平均の1時間35分に近く、29ヶ国中10番目に長かった。最長のフランスと最短のアメリカのほぼ中間程度の時間をかけて食事を楽しんでいる。1食あたり30分以上を費やしている計算だ。

 一方で、極端に短く食事を終えている人は、早食いの可能性があるかもしれない。早食いは健康に悪影響を及ぼすことがある。特に、早食いの習慣がある人は肥満になりやすいことが疫学調査で明らかになっている。日本の厚生労働省のウェブサイト『e-ヘルスネット』によると、食べる速さとBMIの関連を分析した調査では、早食いの人はBMIが高い傾向にあることが示されている。

 厚生労働省は、しっかり噛んで食べることを推奨している。十分に咀嚼することで、満腹感が得やすい、視床下部から食欲の抑制ホルモンが分泌される、代謝が活発となる、薄味・少量でも満足感が得やすくなる、といった利点があり、肥満の解消や予防につながるという。

 早食いをやめるためには、日本肥満学会は、「肥満症診療ガイドライン」のなかで、食事中に一口ごとに30回噛むことを心がける「噛ミング30(カミングサンマル)」運動を提唱している。この方法は、肥満対策の一環として行動療法の一部に位置づけられている。

 たっぷりと食事の時間を取ると、気持ちにゆとりをもって味わえるだけでなく、よく噛むことで健康上のメリットを得やすくなるようだ。