「高齢者の独り暮らし=孤独」というイメージはいまだ根強いですが、日本の高齢者の自殺率を調べると意外な事実がわかります。今回は、精神科医である保坂隆氏の著書『精神科医が教える60歳からの人生を楽しむ忘れる力』(大和書房)から、老後の孤独についての考え方をご紹介します。
友人が多いのはいいこと。そう刷り込まれてはいませんか?
世の中では、独り暮らしの高齢者を「かわいそう」「お淋しいでしょうね」という同情目線で見ることがまだ多いようです。マスコミの報道などにも、いまだにそういう意識でのコメントが見られます。
しかし、日本の高齢者の自殺数を調べると、独り暮らしの方より家族と住んでいる方が多いという調査結果があります。独りでいるより、家族と暮らしているほうが余計に孤独を味わうことがあります。
高齢者の独り暮らしが孤独というイメージはそろそろ払拭してもいいと思います。配偶者を介護ののち看取ってから自由に自分の時間を楽しむ人もいます。「孤独」「孤立」などと不安を煽る話は多いのですが、お金がなくても悠々自適に好きなことをして独り暮らしをしている方は、実は多いのです。
「老いたら孤独が心配だ」という人がいますが、心配は忘れましょう。孤独かどうかは人が決めることではありません。孤独も友だちという気持ちになれる自分をつくってほしいと思います。孤独を友だちにするために、必要な武器は好奇心です。
(広告の後にも続きます)
淋しいことは悪いことではない
外に出ることができない病気の高齢者の方を知っています。その方の趣味は、大河ドラマと相撲です。毎年大河ドラマのテーマになる時代の勉強をします。相撲にも非常に詳しいです。
彼が言うには、「週に何本か楽しみにしている番組がある。それを待つだけでも日々楽しいし、今は配信で見られたりするから、昔の大河ドラマを見返して忙しいくらいだ」と話します。外から彼を見れば、独り暮らしのうえに病気で「かわいそう」と思ってしまいますが、本人は大いに楽しんで生活しています。
もちろん彼も淋しいときはあるでしょうが、まったく淋しくない人生なんてあるでしょうか。淋しさを感じない人はつまらない人のように思います。淋しさを感じるから、私たちは月を愛で、虫の音に詩を感じてきたのかもしれません。淋しいことは悪くないのです。淋しさから感性が生まれます。
ただ、極端な「孤立」を防ぐためにも、まわりにネットワークをつくる努力はしたほうがいいでしょう。近所付き合いをする、サークルなどに入る。介護サービスを利用するなど、人とつながる術を用意しておいてください。
保坂 隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長