草原にいてもスマホを片手に

モンゴルは、日本の4倍(156万4,100平方キロメートル)ほどの国土に、日本の人口の約36分の1にあたる約345万人(2022年・モンゴル国家統計局)が住む、世界で一番「人口密度の低い国」です。

大草原の中にたったひとつのゲルしかなく、あたりを見わたしても、そこにいるのは自分と遊牧民のご家族、家畜だけ、なんてことは当たり前にある光景です。

しかし、近年ではその状況が変わってきました。

民主化・市場経済化の流れや、数年に一度起こる深刻な雪害などにより、地方から首都ウランバートルに人々が流入し、都市人口が急速に増加しているのです。

そもそもモンゴルでは、1992年に「人々は自由に居住地を選択できる」と土地私有化法で定められ、人口移動が自由化されています。また、2003年に施行された土地所有法で一世帯あたり最大700平方メートルの土地が配分されることになりました。さらに、2008年には土地所有法が改正され、すべてのモンゴル国民の個人に対して、最大700平方メートルの土地が追加配分されることになりました。

そのため、1998年に65万人だったウランバートルの人口は、2022年には約169万人(モンゴル国家統計局)へと増え、いまや国全体の人口の約半数が住むようになりました。

ウランバートルには「ゲル地区」があります。

これは、山の斜面などに、ゲルが無秩序に並ぶ場所です。毎年数万人ずつ移住してくる人たちの多くは、その「ゲル地区」にゲルを建てて生活するため、ウランバートルの人口の約6割がこの地区に住んでいるとされています。

しかし、都市型の暮らし方とゲルでの生活の仕方が大きく違うことで、さまざまな問題が生じました。

まず、「ゲル地区」には電気が供給されているものの、道路はもちろん上下水道などのインフラはほとんど整備されていません。水は給水所から購入するのだとか。また、汚水も処理されないままに排水されるため、土壌や水質汚染は大きな問題です。

さらにマイナス30度まで気温が下がるモンゴルの冬には暖房器具の使用が不可欠ですが、ゲル地区では暖房の多くを石炭ストーブに頼っていることから、周囲には煙が立ち上り、ひどいときには視界もさえぎられるほどです。この排煙による大気汚染も年々深刻化しています。

余談ですが、モンゴルでは近年、スマートフォンの普及が進んでいます。

その普及率は100%を超えているという分析もあるほどです。ゲル地区では電気が供給されている一方、電線のない草原では電力が供給されないことから、ゲルに設置する「独立小型太陽光発電システム」が普及しているそうです。豊富な日射量を活用して自家発電し、草原にいてもテレビを見たり、スマホを利用したりしています。

モンゴルではフェイスブックを利用する人も多く、全人口の81%が利用していると言います。これは、フェイスブックが誕生した米国(69%)、日本(70%)よりも高い水準です。

ゲルでの暮らしぶりはアナログそのものに見えるかもしれませんが、実は、デジタル化が進んでおり、ウランバートルにある小売店や飲食店ではQRコード決済が当然のように使えますし、草原で乗馬やラクダに乗るというアクティビティですら料金はピピっとQR決済。キャッシュはほぼ使いません。

ちなみに、一般的なゲルの大きさは直径5メートル前後で、床板を除くと、その重量は300キロほどですが、遊牧民なら1時間から2時間あれば組み立てられるとのことです。

安藤 義人

ココザス株式会社代表取締役CEO