アスター‘ジンダイ’は神代植物公園で栽培されていた株が親株

それから数年が経った2023年。「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」の入賞ガーデナーの一人として鈴木さんが座談会に登壇した際、神代植物公園の松井映樹園長と面識ができたことがきっかけで、アスター‘ジンダイ’の謎解きが再び始まりました。

松井園長が、開園当時から現在までの目録をあたってくださり、アスター‘ジンダイ’の由来と考えられる植物を発見。ただし、いつ、どのような経緯でリック・ダーク氏がそれを入手したかは分からない、というところまで辿り着いたのです。


2023年に東京・代々木公園内で開催された「第1回 東京パークガーデンアワード」で準グランプリを受賞した鈴木学さんによるコンテストガーデン「Layered Beauty レイヤード・ビューティ」の6月。

それから少し後、鈴木さんが代々木公園でコンテストガーデンのメンテナンスをしているとき、北海道「十勝千年の森」のヘッドガーデナー新谷みどりさんと会う機会がありました。実は新谷さんはナチュラリスティックガーデンの考えを日本に広めた第一人者でもあり、鈴木さんにアスター‘ジンダイ’を探してほしいと頼んでいたのです。そこで、これまでの調査の経緯を話したところ、なんと、新谷さんは書籍に記載されていたアメリカのプランツマン、リック・ダーク氏と知り合いであることが判明。リック氏本人にアスター‘ジンダイ’について聞けることになったのです。

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‘ジンダイ’の名付け親リック・ダーク氏は1985年に神代植物公園を訪問


当時、神代植物公園内でアスター‘ジンダイ’の親株が育っていたのではと想定されているのは「宿根草園」と呼ばれている場所で、2023年にリニューアルされた。写真は2024年7月の様子。

2023年暮れ、リック氏にアスター‘ジンダイ’のことを問い合わせていた新谷さんにメールの返信がきました。そこにはこう書かれていました。

「1985年、ペンシルヴァニア州のロングウッドガーデン(Longwood Gardens)に勤務していた当時、同園と米国国立樹木園(U.S. National Arboretum)の共同調査のため、樹木園のチーフ、シルベスター・マーチ(Sylvester March)氏と一緒に来日しました。その目的は、日本の植物苗の生産者や植物園、在来植物の自然植生地を訪れて、北米を中心とした園芸業界に役立つ日本の植物を見出すことにありました。


アスター‘ジンダイ’の親株と思われる株は、宿根草園にあったものをリニューアル時に掘り上げて鉢植えで栽培。今年は10月上旬に咲き始めました。撮影/松井映樹

その際に神代植物公園を訪れ、当時の園長に園内を案内していただいた時、展示植栽地でひときわ草丈の低いシオン(Aster tataricus)系の植物が目に留まりました。それが特別な品種(交配種)なのかを聞いたところ、「いいえ、純粋に種から育てているものです」との答えが返ってきました。


神代植物公園で2024年10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’の親株。ヤマトシジミアやイチモンジセセリ、ツマグロヒョウモンが蜜を求めてやってきた。撮影/松井映樹

草丈が低く、コンパクトでありながら真っ直ぐに成長する姿を見て、アメリカでは草丈が高く育ちすぎて倒伏しやすい従来のシオンよりも、庭でずっと育てやすいと確信しました。神代植物公園の当時の園長はとても協力的で、寛大にその植物を分けてくださいました。

無事にアメリカに親株を連れて帰り、その後、神代植物公園に敬意を表して、‘Jindai’の名前を付けて世の中に紹介しました。今や生産栽培分野においても、この種の持つ草丈の低さは安定しており、北米の環境に見事に適応して、非常に優秀で美しいアスターとしてたくさんの方々に愛されています」


現在開花中のアスター‘ジンダイ’の親株は、神代植物公園内の植物会館前で10月20日まで秋の七草とともに展示中。アスター‘ジンダイ’は花が咲いている期間同場所でその様子をご覧いただけます。撮影/松井映樹

その後、アスター‘ジンダイ’の親株を渡した当時の園長が柴沼弘さんであったことが分かりました。1961年の開園当初の神代植物公園の植物目録には「しおん(だるま)」の記載があります。1991年の植物目録では「シオン Aster tataricus」と記載されており、現在も、「シオン Aster tataricus」のラベルの付いた矮性のシオンが神代植物公園で栽培されています。つまり、アスター‘ジンダイ’は、日本では「ダルマシオン」の名で長年親しまれていた草丈の低いシオンの一種と考えられ、アメリカのプランツマンによってその価値を高く評価され、固有品種名‘ジンダイ’の名を冠して世界中に広がったのです。