38年ぶりに里帰りしたアスター‘ジンダイ’


はるはなファームで植え付けを待つアスター‘ジンダイ’の苗。2月。写真/鈴木学

この由来の解明と並行して鈴木さんが営む、はるはなファームでは、2023年の9月にオランダからアスター‘ジンダイ’のプラグ苗を輸入し、育てた苗が12月に「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」のコンテストガーデンに植えられることになりました。1985年にリック・ダーク氏が‘ジンダイ’をアメリカに持ち帰ってから、38年ぶりに里帰りしたことになります。


2023年12月に植え付けたアスター‘ジンダイ’の場所を示すプレートが設置されたコンテストガーデンA 「Grasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜」。

そしていよいよ迎えた10月上旬。コンテストガーデンで開花したアスター‘ジンダイ’は、草丈130〜160cmと従来のシオンと比べてコンパクトながら、分枝した先にたくさんの淡紫色の小花を次々と咲かせています。

里帰りして初めて開花したアスター‘ジンダイ’を見て、鈴木さんは「もう一つ興味深いのは花色が濃い点」だと言います。「一般的なシオンは、もう少し花色が薄くて、写真を撮る際の条件によっては白に近く見えることもありますが、これはしっかり色を感じますね。海外で栽培されている‘ジンダイ’は、花色が濃いと聞いていたので、期待通りでした」。

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ガーデンプランツとして期待されるアスター‘ジンダイ’の可能性


コンテストガーデンで10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’。

鈴木さんか今年秋、日本の気候で約1年育てて開花したアスター‘ジンダイ’を確認して、これからのガーデンで活躍する植物であることを確信したと言います。

「まず一番の魅力は、日本の気候にあった宿根草だということです。特に秋、宿根草ガーデンの最後のシーズンを飾る宿根草として加えられることはよいと思います。


シンフィオトリクム Alex Manders/shutterstock.com

西洋のアスター(シンフィオトリクムとかユーリビアなど)は、基本的に日本の気候に合うものが多いものの、グンバイムシなどの害虫に弱かったり、酸性度の高い土壌では育ちにくい場合があります。例えば、ノコンギクやシオンなどの日本に自生していたアスターは、気候に合うのはもちろん、病害虫にも耐性があり長い期間、持続可能で魅力的な植栽を計画するうえでは欠かせないと思います。


ノコンギク

一方、ノコンギクやその他のアスターの多くは、植栽の中で構造的に使えるか(長い期間、形としての植栽を維持できるかどうか)という点で劣るものも多く、その点からもシオンは、構造的な宿根草として使えるというメリットがあります。


コンテストガーデンで10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’。支柱をせずに自立しているのも特徴。

しかし、従来のシオンは2m前後と草丈が高すぎるので、必ずしもすべての現場で重宝するというわけではありません。ですので、アスター‘ジンダイ’のような130〜160cmにとどまる草丈は、“ちょうどいい”と思います」。

 鈴木さんが、今ナチュラリスティックな植栽に関わるなかで、昨今よく外来種と在来種が話題になり、慎重に扱うべきテーマだとしたうえで、

「このアスター‘ジンダイ’のように、人と人とのつながりがきっかけで、植物が海を渡り、世界中でガーデンプランツとして使われ、そして40年近く経て故郷に帰ってきました。今回、その環をつなぐ一助となれたことは、忘れがたい経験になりました」と語ります。


アメリカ合衆国イリノイ州にある「シカゴ・ボタニック・ガーデン(Chicago Botanic Garden)」で開花するアスター‘ジンダイ’。2019年10月25日撮影。撮影/新谷みどり

また、海外で育つアスター‘ジンダイ’を実際に何度も見た経験があり、長年由来とその性質に関心を寄せてきた新谷さんは「Rickの言う通り、シオンAster tataricusより倒れにくく育てやすいうえ、野の趣がいいなと感じた」と、その魅力を語ります。

「私が実際に見たシカゴ・ボタニック・ガーデンのアスター’ジンダイ’(上写真)は、背景にあるカラマグロスティス’カール・フォースター’より低い(130〜140cm)草丈であると分かります。草丈や花色は、気候の違いによっても差が出ますが、シカゴ・ボタニック・ガーデンで見た時は、寒暖差のある秋で、湿度が高くない状態で、北海道の秋とも少し似ているとも言える気候でした。


シカゴ・ボタニック・ガーデン内の「GARDENS OF  THE GREAT BASIN」と呼ぶ6つの庭で構成された一大エリアに開花するAster tataricus ‘Jindai’。 2019年10月25日撮影。撮影/新谷みどり

昼夜の寒暖差が大きくなり、それまでの季節より花色が濃くなっていくことは植物では珍しいことではないため、アスター’ジンダイ’の本当の性質は、本州の高温多湿な温暖地と北海道の寒冷地の両方でテスト栽培をしてみなければ判断できないと考えています。

そして、Aster ‘Jindai’の物語が判明した今、何よりも私が一番育てたいのは、日本のダルマシオンに他なりません。アメリカのプランツマンを魅了した日本の植物が絶えることのないよう、植物への思いに満ちた園芸愛好家ならば誰も手に入れることのできるようになることを願っています。それこそがアスター‘ジンダイ’に注目した当時のRickの使命であり、Aster tataricus ‘Jindai’の故郷である日本として見習うべきことだと思います」。


海外で撮影された、霜をまとうアスター‘ジンダイ’。Wiert nieuman/shutterstock.com

今、里帰りして初めて開花したアスター‘ジンダイ’が、第2回 東京パークガーデンアワードのコンテスト会場である神代植物公園、正門手前のプロムナードで秋のガーデンに彩りを添えています。さらに咲き進み、冬が近づくと綿毛をまとったタネの姿もオーナメンタルに活躍するのではと期待されています。ぜひ、ガーデナーが注目する宿根草、アスター‘ジンダイ’の様子をご覧に、お出かけください。