ニュースなどで頻繁に取り上げられる「あおり運転」。被害者の精神的苦痛は深刻であり、トラウマにもなりかねない。
自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険は今年、『2024年あおり運転実態調査』を実施。あおり運転をされたことがあるドライバーは72.5％であった。昨年の53.5％よりも大幅に上昇し、この半年間でも24.1％と多くのドライバーがあおり運転に遭遇していることがわかった。
今回は、あおり運転により手に汗握る恐怖を体験した2人のエピソードを紹介する。
◆青信号で発進が遅れた瞬間に…
菊田聡さん（仮名・20代）は、ある日の夕方、いつものように運転していたときにあおり運転に遭遇した。
「少しぼんやりしてしまって、信号が赤から青に変わったときに発進するのが遅れてしまったんです。普段は何ということもないのですが、そのときは違いました」
すぐ後ろにいた車の運転手が突然クラクションを鳴らし、強い苛立ちをあらわにしてきたそうだ。菊田さんはそのまま運転を再開したのだが……。
「後ろの車が急接近してきました。車間距離はほとんどなく、ハイビームで攻撃するような行動を繰り返し、まさに“あおり運転”の典型的なパターンだと思いました」
冷静に対処しようとした菊田さん。5分間もこの状態が続き、かなりのストレスが溜まっていたという。
「心臓がドキドキして、どうすればよいのか頭のなかが混乱していました」
そのとき、奇跡的に警察のパトカーが現れた。
◆警察のパトカーが登場「これは運がよい！」
「パトカーが見えた瞬間、『これは運がよい！』と思いました。後ろの車もパトカーに気づいたようで急ブレーキをかけて減速しましたが、遅かったようですね。パトカーが相手に近づいて停車させました」
菊田さんはその場面をバックミラー越しに見た。そのときの安堵感と爽快感は今でも忘れられないそうだ。相手は警察によって厳しく取り締まりを受けているようすで、明らかに狼狽していたという。
「私はそのまま運転を続けましたが、心のなかでは正直、『ざまぁ見ろ』と思っていました」
加害者が痛い目にあうかたちで終わったこのあおり運転は、まさにスカッとする体験だったという。
◆異様な速度で接近してくる黒い車
「高速道路での長距離運転は、いつもリラックスできる時間でした。東京から大阪へ向かうため、ドライブを楽しんでいたんです」
鈴木亮さん（仮名・30代）は、お気に入りの音楽をかけ、時速100キロほどで順調に走行していた。しかし突然、異変に気づいたという。
「バックミラーに映ったのは異様な速度で接近してくる黒い車。わずか数メートルにまで私の車に近づいてきて、クラクションを鳴らし始めました」
急いでいるのかと思い、鈴木さんは追い越し車線に移動しようとした。しかし、黒い車はすかさず横を並走してくると、今度は前に出て進路を塞いできたそうだ。鈴木さんは「なんだこいつは？」と思った……。
「その車は後ろに移動すると、ハイビームを容赦なく照らし始めたんです。眩しさで驚いてしまい、ハンドルを握る手にも力が入りました」
恐怖と焦りで心拍数が上がり額には冷や汗が……。鈴木さんは「落ち着け」と自分に言い聞かせるのだが、あおり運転は30分以上も続いた。
一瞬、相手の表情が見えたというが、不気味な笑みを浮かべていたのだとか。鈴木さんは、この状況から逃れようと次の出口で高速道路から降りることを決意する。
◆震える手で警察に通報し…
「出口まであと2キロの標識が見えたとき、あおり運転してきた運転手が急に加速し、私の前に割り込んできて急ブレーキをかけたんです。衝突を避けようと、私もとっさにブレーキを踏み込みました」
ブレーキによるタイヤ音と、後続車のクラクションが鳴り響いた。
幸い事故にはならなかったが、心臓が口から飛び出しそうな恐怖だったと鈴木さん。その直後、相手は高速道路を降りていったそうだ。
「私はサービスエリアの駐車場で深呼吸を繰り返し、震える手で警察に通報しました」
警察の調べで、相手の運転手が過去にも同様のあおり運転を繰り返していたことが判明。後日、防犯カメラの映像が証拠となり、運転手は逮捕されたという連絡を受けた。
道路に戻る勇気が出るまで1時間以上かかったという。この経験を機に、鈴木さんはより慎重に運転をするようになったとか。
＜取材・文／chimi86＞
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
