どこでも通用する「エンプロイアビリティ」(雇用される能力)を磨こう
――20~30代の離職理由に「充分なキャリア構築がされないと思った」と「先輩・ベテラン社員を見て不安を覚えた」が半数を超えます。今の会社にいつづけることによる将来のキャリアへの不安だと思いますが、このように、若手が不安に陥ってしまうかもしれない企業のありかたについてどう考えますか。
藤井薫さん 先に述べたように、VUCA(ブーカ)社会によるスキルのコモディティ化の加速と、日本的雇用慣行の転換を背景に、これまでの長期雇用保障に代わる、「エンプロイアビリティ」を高めたいという意識が高まっています。
「エンプロイアビリティ」(employability)は雇用される能力のことで、Employ(雇用する)とAbility(能力)を組み合わせた言葉。平たく言えば、転職できるための能力を示し、これが高いと転職や再就職の際に有利になるといわれています。企業内外を越えた労働市場におけるビジネスパーソンとしての価値ともいえます。
ビジネスの変化を前提に、多くの事業領域を越境し、スキルをアップデートしたいと望む個人は、キャリア構築や学習の機会の有無や、先輩社員がどの程度スキルをアップデートしているかといった観点に敏感になっていると言えるでしょう。
自身が期待するキャリアイメージとのギャップに不安を感じている方が多くいらっしゃることを表しているかと考えられます。これは自身のキャリアに対する関心が高まっているとも捉えることができるでしょう。
しかし、職場でのキャリア自律に関する課題として「評価基準が不明瞭である」とか「将来のキャリアの展望について、上司や人事と話す機会がない」といった回答が半数近くありました。多くの個人が「将来のキャリアへの機会の少なさ」に課題を感じていることが分かりました。
企業に求められるのは、若手に限らず全ての社員に対して、各自のキャリアに寄り添い、自らがビジネスの変化に対して、学び成長したくなる機会を整備することです。そして、従業員のパフォーマンスと未来のエンプロイアビリティを高める、コミュニケーションの深化が求められます。
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忙しすぎる管理職のために、「複数制」導入の企業も
――たしかにそのとおりですが、「従業員のキャリアに関する対話は、基本的に現場の中間管理職に任せている」企業が約4割というのは、無責任ではないですか。そうでなくても管理職は、仕事が過剰に多いのが現状です。
藤井薫さん 「従業員のキャリアに関する対話」は現場のみに任せるのではなく、経営、人事、現場の三者が一体となって進めていくことが重要です。
役割の多様化に伴い、一般的に管理職の業務量は増加傾向にあります。リクルートワークス研究所の調査(2019年)によれば、ミドルマネージャーの約9割がプレイングマネージャーであることが明らかになりました。
マネジメント業務に加え、プレイング業務も行わなければならない状況では、キャリア対話に割く時間が充分に確保できないケースが多く見受けられます。さらに、管理職がピープルマネジメントに関する十分な知見を持ち合わせていないケースも多く、これもキャリア対話の実現を難しくしている要因の1つと考えられます。
こうした課題に対応するため、マネジメント業務を複数名で分担する企業も増えつつあります。これまでのあり方を見直し、管理職のリスキリングも含め、従業員とのキャリアに関する対話を十分に行えるような仕組みを経営と人事と現場が主導して構築していくことが大切です。
――なるほど。ところで気になったのは、リポートの中にある「企業の人事担当者からは、キャリア自律意識を高めると離職してしまうのではないかという意見も聞かれる」という箇所です。ここはどういう意味でしょうか。
藤井薫さん 一般的に、企業は従業員に対して長期的に活躍し続けてほしいという期待を持っています。その一方で、個人がキャリア自律意識を高めることで他社に転職してしまうのではないか、という不安を抱える企業も一定数存在します。
しかしながら、実際のところ、個人のキャリア自律を高めるような施策を行う職場は、従業員にとって非常に魅力的であり、人材の定着にプラスの効果をもたらす傾向があります。今回の調査でも、キャリア自律を促進する職場環境が人材の定着も促進するという結果が示されました。
したがって、個人のキャリア自律を高めるための施策を導入することは、職場の求心力を高める有効な手段です。企業は従業員のキャリア自律を支援することに向き合い、具体的な施策を実行することが重要です。