「星野リゾートを全制覇したい」36歳独身女性の挑戦。「年間投資額200万円」を徹底した節約生活で捻出

 2021年11月、誕生日の直前に7歳年下の彼氏にフラれたミカさん(36歳)。去り際に彼から言われたある一言をきっかけに、彼女は節約しながら星野リゾートを全制覇すると決めた。独身女性の生きづらさと向き合い、たどり着いた“自分らしい幸せのかたち”とは?

◆7歳年下の彼氏から浴びせられた悔しい一言

 都内のIT企業で働くミカさんはコロナ禍の2021年から約半年ほど、7歳年下の彼氏と付き合っていた。交際期間は短いものの、33歳という自身の年齢や2人の関係性を考え、「ゆくゆくはこの人と結婚するのだろう」と思っていた。

 翌年1月に迎えるミカさんの34回目の誕生日には結婚の話が具体的に進むだろうと意識していた矢先、彼から別れ話を持ちかけられた。

「『ミカちゃんよりも面白いコンテンツが世の中にたくさんあると思った』と言われました。コロナ禍で、彼は農業体験など楽しそうなアウトドアにハマっていたので、私との恋愛よりそっちを優先したくなったのかもしれません。それにまだまだ若いので、私ほど結婚に前向きではなかったんだと思います。とはいえ、30代半ばでの失恋は悔しくて悲しくて恥ずかしくて……とてもつらかったです」

◆逃げるように「沖縄の星野リゾート」を予約

 今いる場所から、できるだけ遠くに行きたい。そう思ったミカさんは勢いに任せて沖縄にある「星野リゾート リゾナーレ小浜島」を予約。翌週、逃げるように“ここではないどこか”へ向かった。

 ラグジュアリーな空間で何をするでもなくゆっくりと過ごし、大失恋した東京の暮らしが嘘のようだった。自分と向き合い、この先の人生について考えたミカさんは、ひとつの目標にたどり着いた。

「思い描いていた未来はなくなって悲しかったですが、『そもそも自分は本当に結婚したかったのだろうか』と自問自答しました。30代に入って、結婚に焦っていたし、周りにも『結婚して幸せになってほしい』と言われるようになったけれど、ずっとモヤモヤとしていて。私にとっての幸せは自分で作りたい。自分でおもしろいコンテンツを作ってやる。そう思ったときに、非日常で最高な空間を提供してくれる『星野リゾートを全制覇したい』という目標が生まれました」

◆ネイル、美容院、都内一人暮らし…全部やめた

 星野リゾートは、個性が際立つラグジュアリーな世界観の温泉旅館やホテルなどを運営しており、世間的には「一度は泊ってみたい憧れの高級宿」というイメージが強い。「1泊10万円~」のところも多いなか、30代の会社員が約60ある施設を制覇するのはなかなかのハードルが高くも思える。そこでミカさんは“星野リゾート全制覇”するための節約生活をスタートさせた。

「星野リゾートのために7年続けていたネイル、毎月のヘアカラー、まつげエクステをやめました。お花屋さんでお花を買うのをやめて造花を飾り、こだわっていたシャンプーや化粧品などもリーズナブルなものに買い替えました。これだけで年間50万円弱浮かすことができたんです」

 さらに、食事はUberEATSから毎日お弁当生活になった。極め付きは、都内から鎌倉に引っ越したことだ。

「都内から鎌倉に引っ越して、家賃は11万円から9万円に。加えて、終電が早いので飲み会に行く回数が減り、深夜に無駄にタクシーに乗る機会もなくなったので、より節約に磨きがかかっています」

◆ただただボーっと漫画を読む時間に幸せを感じる

 ミカさんが星野リゾートに宿泊するとき大事にしているのは、「予定を詰め込まず、ただひたすらボーっとすること」。漫画全巻を持ち込み、宿泊期間中に読み切るという“コンテンツ”も大事にしている。

「大人になって、『意外とあの名作漫画を読んだことないな』と気付いたり、『世間で話題の漫画だけど、忙しくて読めてない』と残念に思ったりすることが多い。『ちはやふる』や『キングダム』を星野リゾートに全巻持ってきて、一気読みするんです。そして、読みながら寝落ちするのがすごく幸せなんですよね。電子書籍でもいいのですが、仕事の通知が気になってしまうので、漫画の世界に浸れる紙のものがちょうどいいんです」

 漫画はメルカリで全巻購入して読破後にすぐメルカリで売るため、お金もかからない。

◆将来への不安が「あまりない」理由

 日々、スプレッドシートで予約の管理やキャンペーン情報、毎月の収支などをまとめ、節約生活を続けており、2024年6月段階で、訪れた星野リゾートの施設は50。ミカさんの年収は「一般的なOLさんくらい」だと話す。

 星野リゾートへの年間投資額は、宿泊費だけで約100万円、交通費を含めると約200万円とのことだが、将来への不安はあまりないという。

「節約生活が身についているので、『星野リゾート全制覇』が終わったら、お金が貯まるようになるのかなと思っています。ある意味、老後の対策を既にしているとも言えますね。それに実はこの生活を続けてから給料が上がったんです。週末に行く星野リゾートのために仕事を終わらせようと、平日は必死に働くようになったからだと思います(笑)」

◆目標をくれた元カレに「今は感謝してる」

 元カレはミカさんのブログを読んだそうで、「僕は人間的にやばいんじゃないかと、自分を見つめなおしてます」と連絡してきたそうだが、ミカさん自身は元カレに対して未練や否定的な感情は全くないという。

「星野リゾートの宿泊レポート記事をブログに綴ったり、節約内容をXに書いたりすることで、テレビ出演のオファーがきたんです。他人から見ると“変わったライフスタイル”だけど、幸せに生きる女性に密着!といった内容のバカリズムさんMCの特番でした。私の星野リゾート全制覇の話と元カレの話を盛大にいじってもらえて、面白いコンテンツを自分で作り上げたんだなってガッツポーズでしたね。全て報われました。

 社内外の人から『星野リゾートの人』と認知され、クライアントとの会議で話題に上がったり、『ミカさんのような生活に憧れます』と後輩に言ってもらったりすることもありました。『星野リゾート全制覇』という目標に向かって日々邁進している今が一番、幸せで前向きな気持ちになれているので、元カレには感謝しています」

 アラサーのミカさんが大失恋の先に出合った“人生最高のコンテンツ”。紆余曲折を経たからこそ見つけた“自分らしい幸せ”を聞き、日々悩みが絶えない同世代の筆者は勇気をもらえた。今後、人生の壁にぶつかったら、ミカさんのように、思い切って新しい扉を開いてみたい。

<取材・文/橋本岬>

【橋本 岬】

IT企業の広報兼フリーライター。元レースクイーン。よく書くテーマはキャリアや女性の働き方など。好きなお酒はレモンサワーです