気に入っているものほど、使う頻度が高くなる。だから、汚れたり壊れたりすることも。それでも愛おしさは残るので、処分するにはしのびない。そんな思いのこもった品をプロに頼んだり、自分の手で直したりしながら使い続けている人々に、愛用品と〝直したい気持ち〞を教えてもらった。


伐採した桜の枝を鍋いっぱいに沸かして出てきた黄色の液体を捨て、さらに数時間煮込むと赤みのある染液が出る。その染液で3度染めたら、淡いピンク色に。

庭の植物を使った手軽な草木染めで、色の変化を楽しむ。

薬草園を有する敷地に蒸留所を作り、そこに家族と住む山本祐布子さんが、庭仕事を担当するようになって3年が経つ。その際に気分を盛り上げようと〈オールドマンズテーラー〉の生成りのリネンシャツを購入した。

「イメージとして庭仕事ならシャツだろうというのと、大変な仕事なので、せっかくなら好きなものを着たくて。ただ、けっこう動きが激しいので、破けてしまうことも」

 その部分は継ぎ当てをして補強したが、染みや日焼けも目立ってきたことから、色を染めてみようと思い立った。使ったのは桜の枝。

「よく手伝ってくれている女性が天然素材で自由に染色しているんです。それを聞いて、自分でもやってみたいと、いろいろ調べながら挑戦したのが数か月前のこと。その後、もう1回、染めました。草木染めだし、媒染をしないので色落ちするのも早いのですが、落ちたらまた染めればいいか、と気楽にやっています」

 大切なものを直して使うという意識は、昔から当たり前のようにあったという。

「若いときから服を買うにも10年は着るぞ、という思いで厳選していました。今はそういったものが時を経て、くたびれてきているので、より直すことに興味が湧いています」

 ずっと好きでいたものが、少し手をかけることで新たな美しさを見せてくれる。そのことが嬉しく、愛おしさも倍増する。


破れた部分も裏に布を当ててダーニングで補修。〈オールドマンズテーラー〉のシャツは3枚目。

山本祐布子 Yuko Yamamotoイラストレーター

イラストの仕事のほか、夫である江口宏志さんとともに千葉県大多喜町で「mitosaya薬草園蒸留所」を運営。著書に、夫との共著となる『mitosaya薬草園蒸留所で作る13のこと』(KADOKAWA)など。

photo : Takashi Ehara edit & text : Wakako Miyake

&Premium No. 131 LONG-TIME STAPLES / 使い続けたくなる、愛しいもの。

ファッションやライフスタイルにまつわるもの選びにおいて、時間をかけて長く付き合っていく姿勢が、これまで以上に必要とされているように思います。でも、ただ漫然と「長く使い続ける」ことだけが重要ではなく、それを使ったり、身に着けたときに、出合った頃と変わらぬ「愛おしさが続いている」ことも、忘れてはならない大切な要素なのではと考えます。初めて手にしたときの高揚感、作り手のこだわりに惚れ惚れとしたこと、使い続ける日々の中で紡がれた大切な思い出……。そういったさまざまな「記憶」が、人とものを、長きにわたって、幸せなかたちで繫ぎ合わせていくのです。〈ミナ ペルホネン〉のデザイナー・皆川明さんをはじめ、たくさんの方々に「使い続けたくなる、愛しいもの」にまつわるエピソードについて聞いてみました。

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